この電源回路には、ルネサス エレクトロニクス製のスイッチング電源制御IC「μPC1099」が使われており、1次側(入力側)へのフィードバックは2次側の5V出力から行われていた。μPC1099は過電流での電流リミットと過電圧でのシャットダウンの安全機能を備えており、優れた制御ICである。しかし、修理品の基板を詳細に観察したところ、±12Vのグラウンド(GND)パターンに焼損と断線の跡が見えた。その写真を図3に示す。
図3の中央に見えるシルク印刷された「20」という白色の文字の上部を通るパターンは、緑色のレジストが剥がれて、銅箔(はく)が露出していた。これは過電流が流れ、配線が過熱した跡である。またこのパターンは、図3中の赤色の円で囲った部分で断線していた。
先に述べた通り、電源制御ICのμPC1099には過電流リミットと過電圧シャットダウンが付いており、その機能が働けばこのような現象は起こるはずはない。そこで基板上の実装部品を詳細にチェックしたところ、本来は制御ICの近くに実装されているべきはずの過電圧検知のフォトカプラが実装されていなかった。また制御ICの過電圧シャットダウンの端子周辺の接続を詳細に確認したら、とんでもないことが分かった。図4にこの制御IC(μPC1099)の標準回路図を示す。
図4の中央の上部に過電圧検知のフォトカプラがある。μPC1099の標準回路では、過電圧が検知されたらこのフォトカプラがオンして、12番ピンの「Over Voltage Latch」信号の論理レベルがハイになり、IC内部でラッチして、出力の9番ピンをローに切り替える。するとトランスを駆動する外付けFETがオフになり、スイッチング動作が停止し、2次側の電源出力を遮断するという仕組みだ。
しかし驚いたことに、修理品にはこのフォトカプラが実装されていなかった。過電圧シャットダウンの12番ピンのパターンを確認したら、グラウンドに接続されていた。なんと過電圧シャットダウンが機能しないように“抹殺”されていたのである。この回路設計を見てがくぜんとした。なぜ、マルチ電源の必須機能である過電圧シャットダウンが生かされていないのか?
同じメーカーのモータードライバで15年前は焼損事故に遭遇し、今回は別の修理品でパターン焼けと安全機能が抹殺された電源回路を見た。ここでは企業名を明かさないが、このメーカーは製品の安全設計の意識が欠落しているようだ。筆者はこのメーカーに直接、ドライバの過電圧の監視電圧を電子メールで問い合わせてみたが、「機密のため回答できない」という返事だった。
スイッチング電源やサーボドライバといった製品の中には、マルチ電源を採用しているものが多い。またマルチ電源は事故につながりやすい弱点がある。このため、AC電源を接続する製品を選定する時には必ず以下の2点を必ず確認してほしい。
これは最低限実施すべき点である。怠れば、大きな損失を被りかねない。
安全を軽視した製品では事故やトラブルが発生しやすい。そうした設計をすれば、顧客や自社に迷惑をかけ、後処理の多大な費用と信用の失墜を引き起こしてしまう。これらの事故情報はクローズされ、なかなか表に出ることはなく、事故防止の技術の継承も行われないことが多い。また、安全設計は機器のコストアップになると言われるが、開発時点から安全を織り込んで設計しておけば、小さなコストで実現できる。設計者は、安全から逃げてはいけない。
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