カレントミラー回路で重要なポイントは、Q1、Q2、Q3が全く同一の特性、構造を持つ必要があるということです。トランジスタの特性は電流・電圧だけでなく、動作しているジャンクション温度などにも大きく影響されます。従って、ある一点で同一の特性を持つだけでなく、温度が変化したら特性も同様に変化しなければなりません。
集積回路(ICチップ)であれば、同一ウエハー上の同じチップ上に同じ拡散工程を経て製作された同じ形状のトランジスタは、ほぼ同じ特性を持つと見なせるので、カレントミラー回路を大変容易に実現できます。実際にアナログICの中では、数多くのカレントミラー回路が、電流バイアス発生回路、差動ペアトランジスタの電流負荷回路、回路内の電流のモニター回路、電流帰還アンプの信号伝送回路など、さまざまな用途で使われています。
このカレントミラー回路を外付けでオペアンプに応用するには、全く同一のトランジスタを探さなければなりませんが、個別素子として供給されているトランジスタでは、たとえ同じ品番の個体同士でも「全く同一」と見なせることはまずありませんから、これは至難の業です。しかしトランジスタ製品の中には、複数の素子をひとつながりのチップとして切り出してパッケージングした、モノリシックのマルチトランジスタが供給されています。実際には、2個の素子をまとめたデュアル品が多く流通しています。
図2は、そのように作られたクワッド(4素子)品を使った、オペアンプ回路の例です。
この例では、npnトランジスタのクワッド品「MAT14ARZ」を使いました。この回路でIrefに当たる電流信号源は、一番左側のトランジスタQ1に流れる電流です。この電流Irefの値は、オペアンプの入力電圧Vinと、Vinによって電流が流れる抵抗Rの大きさで決まります。
オペアンプの入力の電位は、仮想グラウンドですから0Vになり、VinによってRにVin÷Rの大きさの電流が流れます。この電流Irefは、アンプのバイアス電流を除いてほぼ全てトランジスタのコレクタに流れ込みます。Irefは、上述の通りVinとRで設定できるので、Vinを可変にするか、あるいはAC信号にすれば、Irefも可変になります。
この基準電流Irefが、ベースを1つに接続した他の3個のトランジスタ(Q2、Q3、Q4)によってコピーされます。4個のトランジスタが全く同一で、同じVBEで動作しているとすると、それぞれのコレクタ電流は全て等しくなります。一見すると図1の回路と違うように見えますが、図1(b)の回路のQ3をオペアンプで置き換えれば、図2とよく似た形になります。
この回路の大きなメリットは、リファレンスとなる電流信号を流すトランジスタのVBEやその他のパラメータが温度変化などで変動しても、その従属するトランジスタの特性も同一チップ上で一緒に変化するので、マッチング特性への影響が少ないということです。
抵抗R1〜R4は無くても原理的には動作しますが、各トランジスタのミスマッチによる誤差を低下させるために有効です。出力電流は、RとVinによって設定できますが、もちろんトランジスタやアンプの能力を超えた大電流や大電圧は不可能です。
オペアンプ出力とグラウンド間に接続したショットキーダイオードは、通常の動作時には不要な部品ですが、電源投入時に回路が正しく立ち上がるようにするため、取り付けています。電源投入時に出力が一瞬正側電源電圧になると、フィードバックが正常に機能せずラッチしてしまう危険性があるからです。オペアンプの出力は、電源投入時にどのような挙動をするか保証されていない場合がほとんどなので、このような補助回路を入れています。
この電流コピー/分配回路は、回路ブロックごとの電流バイアスや電流負荷などに活用できます。抵抗の精度にもよりますが、1%程度のマッチング性能を得ることは、それほど困難ではありません。
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