オペアンプICに個別トランジスタを“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充したりできる定番回路集。これまで何度か、電流信号を扱う回路について解説してきました。回路を設計していると、この電流信号を多くの部分で使いたい時があります。今回は、トランジスタを使って電流信号を“コピー”する方法を紹介しましょう。
実現できる機能 | 電流信号をコピーする回路 |
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こんな場面で有効 | 複数の回路ブロックに対して、それぞれ電流バイアス信号や電流励起信号を供給したい場合。また、電流信号のコピーだけでなく、増幅も使える。 |
この「“ちょい足し”回路」の連載では、これまでに何度か、電流信号を扱う回路について解説してきました。電流信号は、電圧信号に比べて比較的高速動作が可能で、リーク(電流洩れ)さえなければ配線抵抗やコネクタの接点抵抗などがあっても正確に信号を伝送することができます。電圧信号は経路にそうした抵抗が存在すると大きさが変化してしまいますが、電流信号は影響を受けないからです。ただ、正確な電流信号を作れるかどうかは、使用する抵抗器の精度や安定度に大きく依存するところがあり、注意が必要です。
回路を設計していると、この電流信号を多くの部分で使いたい時があります。例えば、回路ブロックごとに個別の電流バイアスを用意するといった場合です。その際、この連載の第2回で紹介した電流発生回路を一つ一つ作るという手もありますが、1個の電流源からそれを“コピー”して分配することができればもっと便利です。そこで今回は、トランジスタを使って電流信号をコピーする“ちょい足し”回路を紹介しましょう。
電流信号をコピーする回路としては、図1に示したカレントミラー回路が非常に有名です。(a)の回路がその原型です。オペアンプにこのトランジスタ回路を“ちょい足し”するのですが、その前にこの回路について簡単に説明しておきます。
原型である図1(a)の回路を見てください。2個のnpnトランジスタのベース同士が接続され、片側のコレクタ/ベースにリファレンス電流(Iref)、そしてもう1つのコレクタに出力電流(Iout)が流れています。トランジスタQ1は、コレクタとベースがショート(接続)されており、この間に電位差はありません。ここでちょっと面倒な数式が出てきますが、少し我慢してください。トランジスタQ1、Q2のベース−エミッタ間電圧、VBE1とVBE2は同電圧で、それぞれのコレクタ電流IC1、IC2により次の式のように表わされます。
VBE1=VT×ln(IC1/ISAT1)=VBE2=VT×In(IC2/ISAT2) ――(1)
IC2=IC1×(ISAT2/ISAT1) ――(2)
ここでVTは熱電圧で、温度に比例した電圧値をとります。具体的にはVT=kT/qで計算でき、kはボルツマン定数、Tは温度(K:ケルビン)、qは電子の電荷量です。20℃でおよそ25mVの値になります。またISAT1とISAT2はそれぞれQ1、Q2の飽和電流です。
この式(1)から単純に式(2)が導き出せますが、もしQ1とQ2が全く同じ特性を持つ素子であれば、IC1=IC2となり、Q1側のIrefを電流利得1倍でIoutとして出力したことになります。これがこの回路の動作原理で、左側の電流をちょうど鏡に映したように右側にコピーするので、カレントミラー回路と呼ばれています。
ただしここではベース電流を無視して、Iref=Ioutが成り立つとしていますが、実際はIrefからベースへの電流を供給しなければならないので、このべース電流分だけが誤差となり、IrefとIoutの不均衡成分になります。Q1、Q2の電流増幅率が大きければこの誤差も小さくなりますが、ゼロにすることはできません。
そこで図1(b)の回路のようにもう1つのトランジスタQ3を追加してベース電流を供給し、Q3の電流増幅によって電流誤差を小さくする手法がよく使われています。このQ3によってQ1とQ2それぞれの電流増幅率(理想は1.0倍)の誤差が大幅に小さくなります。
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