RS-485規格のシリアル通信方式は、FA機器の分野に広く普及している。ところが故障品の修理を手掛ける筆者の元には、機器の内部で通信を担うトランシーバICが壊れ、通信不良に陥った機器がたびたび持ち込まれる。調査したところ、電源を入れたまま通信コネクタを抜き差しする“活線挿抜”が、原因を作り出していた。
最近は接続が簡単な通信方式の採用が増え、FA機器の分野でも接続の簡素化が可能なRS-485の通信方式を採用する製品が増えている。RS-485通信方式の接続方法はいろいろあるが、通信デバイスのラインドライバレシーバ同士を直接接続している機器や、トランスで絶縁して接続するオムロンの「Controller Link」や、ステップテクニカの「CUnet」などの通信方式を利用するFA機器も多数ある。
通信デバイスに使用されるラインドライバ/レシーバ単体は耐ノイズ性を考慮して設計・製造されているが、RS-485方式では多くの端末が接続され、配線長も長くなるため通信デバイスにノイズが印加される可能性が高く、通信デバイスの故障が起こりやすい。今回は、通信不良で修理した機器の不具合事例と対策を説明する。
まずは高速通信の接続インタフェース例について説明する。接続例を図1に示す。
これはステップテクニカのCUnetという通信方式で、同社の通信制御IC「MKY46」のマニュアル(PDF形式のファイルが開きます)の39ページに記載された接続図である。
図1では、通信ケーブル経由で流れ込む信号をまずパルストランスで受けている。これにより外部機器との電気的な絶縁を確保する。そして、通信信号のみをラインドライバ/レシーバ(Analog DevicesのRS-485トランシーバIC「ADM1485」相当)を介して通信制御ICのMKY46へ供給している。
先に挙げたオムロンのController Linkもほぼ同等の接続が推奨されていた。これらの接続方式は、通信ラインにトランスを入れて絶縁することで、機器間の電位差やラインに印加されるノイズを軽減し、通信LSIを保護している。しかし、トランスを入れることで逆に通信LSIが破損しやすくなることもある。なぜだろうか? それには電源を入れたまま、通信用コネクタを抜き差しする、いわゆる“活線挿抜”が関係している。
まず、筆者が手掛けた修理品の1つ目の不具合事例を紹介しよう。不具合が出たのは、CUnet用通信制御ICのMKY46を搭載した通信ボードであり、ラインドライバ/レシーバにTexas Instruments(TI)の「SN65HVD485」を使用していた。基板の機能検査で合格し、出荷した基板が2週間程度で2枚も不良品として返却されてきた。いずれの不良内容も「正常に通信しない」ということだった。
オシロスコープで通信波形を確認したら、信号の電圧振幅が仕様の範囲に収まっているのを確認できたが、終端抵抗(100Ω)を入れて再度確認したら、2枚の基板とも信号レベルが半分以下になってしまった。良品の通信ICは終端抵抗を入れても、信号レベルはほとんど下がらなかったので、通信ICのドライブ能力の低下と判断して、通信ICを交換した。
その後で基板の信号レベルを確認したら終端抵抗を入れても電圧は低下しなかったので、修理完了として基板を顧客へ返却した。同時に、不良ICをチップメーカーであるTIに送り、解析調査を依頼した。その後、チップメーカーから調査報告が届き、「電源ラインに焼損痕が見つかり、ICに過剰な電圧が印加された可能性がある」という回答だった。
この件に関連してTIにトランスを用いた通信方式について質問したところ、以下の回答を得た。「トランスを用いた方法は、もし回線を外したり、スイッチを切り替えたりしたときは、問題になり得る。もっとも、トランス無しでも、活線挿抜はRS-485では認めていない。配線長が長い場合はそのインダクタンスによってサージが大きくなり、問題になることが多々ある」という返事である。
TIでは、RS-485の通信インタフェース回路で、ラインドライバ/レシーバに保護回路を入れることを推奨している。図2にその保護回路の例を示す。
図2はTIがWebで公開している技術資料「TIA/EIA-485(RS-485)のインターフェイス回路」(PDF形式のファイルが開きます)からの引用である。6ページ目に記載されている図だ。2個のダイオードは保護用で、±6Vで動作し、通信ICの入力に過電圧が印加されるのを防ぐ役割を果たす。
修理品の2つ目の不具合事例は、日本の著名なメーカーが量産する産業向けの通信機器である。筆者がこの機器のユーザーである顧客から受けた不具合の報告はこうだ。「メーカーに調査を依頼したが、問題無しとして返却されてきた。しかし、現場で使ってみると通信不良が時々発生する」とのこと。これも通信ICの劣化に原因があるだろうと考え、通信機器のケースを開いて、基板に実装されている部品から回路構成を確認した。図3がその回路である。
この基板は、通信ラインのサージやノイズ対策が、CR(コンデンサと抵抗)のサージ吸収回路やアレスタを使って実施されていた。基板上には多くの部品が実装されていたが、それらを見てびっくりした。ほとんどがその機器メーカーの専用部品で占められていたからである。
その中で、通信ICであるラインドライバ/レシーバは名称が「AD51/250」と読み取れたので、チップメーカーであるAnalog Devicesに問い合わせてデータシートを提供してもらおうと依頼したが「特定ユーザー向けに供給している専用部品であり、データシートは開示できない」という返事だった。ただし、同社の標準品のラインドライバ/レシーバとピン互換で、機能もほぼ同等であるとの回答も添えられていた。
Analog Devicesから標準の部品を入手してICを交換し、修理を待っていた顧客に返却した。顧客の製造ラインが止まらないので、機器の交換は難しく、通修理結果は顧客からの回答待ちである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.