ここまで見てきたような、トランスで絶縁された通信方式で通信ICが劣化する原因は、“活線挿抜”にあると考えられる。電源が入ると、トランスには常に正または負の通信電流が流れており、その状態で通信コネクタを抜き差しするとトランスの2次側から逆起電力が発生する。その結果、通信ICに過電圧がかかって徐々に劣化が進むのだろう。
筆者が経験した修理品の3つ目の不具合事例を紹介する。この機器はトランスを使用せず、通信ラインを直接通信IC(Analog Devicesの「ADM1485」)に接続し、タッチパネル操作と表示信号をRS-485方式で通信していた。修理を依頼してきた顧客の報告では、「タッチパネルが動作せず、基板を交換したら正常に動作した」とあった。通信波形をオシロスコープで確認したら、一方の通信終了の直後に他方が通信を開始していた。これは通信エラーと同じ動作波形であった。その通信波形を図4に示す。
ハード的な不良と考えられたので、基板の通信ICを交換し、顧客に返却した。修理した基板は正常に通信した。また、不良部品をチップメーカーに送り、解析を依頼した。その後チップメーカーから調査報告があり、「8番ピン(VCC)のESD防止ダイオードにEOS(電気的オーバーストレス)が印加され、チップが劣化した」という回答だった。やはり、通信ラインに大きなサージ電圧が印加された可能性が高い。
原因追及のため、システムの接続を確認したが、RS-485の通信ラインの配線長は2m程度で、1対1の接続だった。また、通信コネクタのピンは3本のみで、2本が通信信号でもう1本がグラウンドだった。各々の機器の電源がどこから供給されているのか確認したら、双方とも商用のAC100Vから生成されていた。
ここで「さては!」と感じたのが、やはり“活線挿抜”である。機器の電源が投入されている時に通信コネクタを抜くと、どのような現象が発生するか? このコネクタは一般的なもので、各ピンの接続の順番は不定である。コネクタを抜き差しするタイミングでグラウンドが接続されず、信号のみがつながる可能性が高い。すると機器間の電源の電位差が直接、通信ICに印加され、過電圧となって通信ICにダメージを与えてしまう。
この不具合事例も、“活線挿抜”が故障の原因と推定される。なお、通信先が操作パネルのため、操作パネル側に蓄積された静電気が、通信ラインを経由して放電した可能性もある。
紹介した3つの不具合事例を振り返ると、接続方式が違っても故障解析結果は同じであり、いずれも通信ICに高電圧が印加されていた。高電圧がかかる要因はコネクタの“活線挿抜”にある可能性が非常に高い。TIの回答である「活線挿抜はRS-485では認めていない」という言葉があらためて重く感じられる。
現場で無意識に行われている“活線挿抜”がRS-485の通信ICの劣化を引き起こしていると断定できる。RS-485の通信機器は今後も増えていくので、インタフェース部の劣化・破損対策は非常に重要である。
機器を使用する現場には、通信ラインのノイズ、トランスの逆起電力、活線挿抜での機器間の電位差、静電気など、通信ICを劣化させる要因が多数存在している。やはり基板設計者は、TIが推奨しているような通信ICの保護対策をきちんと施しておくべきだろう。
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