消費電力を一定にする安定化電源装置を使って素子を駆動し、過度の電力消費による素子損傷を防ぐ回路を紹介する。
工業用システムに一般的に使われる加熱素子や冷却素子の抵抗値は正の温度係数を持っており、その値は一定ではない。それらの素子の抵抗値は動作状態で100%を超える変化を示すことがあり、その結果、固定出力の電圧源または電流源から電力を供給すると素子の消費電力が変化する。最悪の場合、過度の電力消費によりそれらの素子に損傷を与えることもある。それに対して、消費電力を一定にする安定化電源装置を使って素子を駆動すれば、これらの問題を克服することができる。
図1に示す回路は、一般の電圧・電流源と類似のものではあるが、負荷抵抗に依存しない一定した電力を供給することができる。負荷での消費電力を帰還ループにより検出し、必要な消費電力を保つように電源の出力電圧を自動的に調節する。電流センサーとなるIC2が出力電流を測定する。次に出力電流に電圧をかけて出力電力を得る。このとき、4象限アナログ電圧乗算器であるIC1およびオペアンプIC3を用いる。
乗算器の出力は反転しているため、ユニティゲイン・インバータ段であるIC4を追加し、出力電力信号を再度反転する。次に、オペアンプIC5が出力電力信号を基準電力信号である入力VPCと比較し、両者間に差があればそれを積分する。この積分器は、出力電力が基準値に等しくなるまで出力電圧を増減することにより、自動的に消費電力を調節する。IC6およびQ1は電圧フォロワ回路を形成しており負荷を駆動する。出力電力はVPC=10×P×RSENSEによって決められる。ここでPは必要な出力電力で単位は「W」、RSENSEは検出抵抗で単位は「Ω」、VPCは基準電力入力で単位は「V」。例えば、求める負荷電力を1Wとし、RSENSE=0.1Ωとすると、VPCは1Vとなる。
図2に示す0.5Wと1W負荷に対する負荷消費電力対負荷抵抗の曲線は、負荷抵抗が100倍変化しても、負荷に供給される電力の変動が、±7%より小さいことを示している。負荷変動率を、出力電力の変動値を出力電力で割ると定義すると、出力電力1Wにおける負荷変動が6Ω〜40Ωの場合、負荷変動率は±2%となる。回路を適切に機能させるためには、アナログ乗算器を、以下のような方法で校正しなければならない。校正時にはジャンパー線J1およびJ2ははずしておく。
1.X入力オフセット調節
1kHzで5Vp-pの正弦波を入力Yに加える。入力Xを接地する。オシロスコープを用いて、テストポイントT1をモニターし、正弦波がACゼロ(振幅ゼロ)になるようにRXを調節する。
2.Y入力オフセット調節
1kHzで5Vp-pの正弦波を入力Xに加える。入力Yを接地する。オシロスコープを用いて、テストポイントT1をモニターし、正弦波の振幅がゼロになるようにRYを調節する。
3.出力オフセット調節
入力XおよびYを接地する。T1におけるDC電圧が0Vになるように可変抵抗ROUTを調節する。
4.スケール・ファクタ(ゲイン)調節
入力XおよびYに10VDCを加える。T1におけるDC電圧が10VになるまでRSCALEを調節する。必要に応じて1から4までのステップを繰り返す。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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