低コストの電源レギュレーターICを使用して、オーディオ信号の伝送に役立つ回路を紹介する。
図1は、一対の銅線で直流電源とオーディオ信号を伝送するときに役に立つ回路である。用途としては、音声入力による低コストのドア開閉システムなどがある。
この回路は、一般的に知られている低コストの電源レギュレーターIC「LM317」を1個だけ使う。このICを使って、エレクトレット・コンデンサー・マイクロホン*1)からのオーディオ信号でADJ(調整)端子の入力信号に変調をかけることができる。なおマイクロホンは、レギュレーターICの出力端子とADJ端子の間に接続した。
*1)振動板や固定電極に電荷を保持させてコンデンサーを形成し、音圧によって振動板を揺らすことで変化する静電容量を検出するマイクロホン。
LM317は、マイクロホンに印加する電圧が常に1.25Vとなるように調整する役目を果たす。マイクロホンに加わる電圧は1.25Vを超えないため、ほとんどのエレクトレット・コンデンサー・マイクロホンを使える。
すべてのエレクトレット・コンデンサー・マイクロホンは、JFETを使ったインピーダンス変換器を内蔵している。これを使って、音声をソース端子からドレイン端子に流れる電流に変換する。さらに、この電流はマイクロホンを通過する際に可変抵抗RPに加わる電圧を変調する。LM317の出力電圧は抵抗RPの電圧に依存するため、結果として直流出力電圧に重畳した低インピーダンスの音声信号が得られることになる。
この回路では、マイクロホンが直接ADJ端子を変調する。このため雑音対策用の平滑コンデンサー(例えばC1)が音声信号のレベルに影響を及ぼすことはない。コンデンサーC1は、音声信号の一部を接地に分流することになるが、その損失分はLM317の内部利得で補う。LM317での余分な損失を防ぐため、コンデンサーには可能な限り小さな容量の素子を使う。コンデンサーを使わなくても動作するが、最大で47μFまでの容量であれば特に問題は生じない。可変抵抗RPを使うことで、直流出力電圧とマイクロホン信号の利得を調整することができる。
この回路を正常動作させるためには、LM317は出力端子から最低でも4mAの電流を流す必要がある。スピーカーを使わない場合でも、負荷抵抗を接続してこの4mAの電流を流さなければならない。低インピーダンスのスピーカーを使うときは、負荷抵抗を接続して、負荷を補う必要性がある。すなわち最小要求電流である4mAに、オーディオ信号の交流電流を加えることになる。なおスピーカーでのひずみ発生を避けるには、8Ωのスピーカーに対して最小で470Ωの抵抗性負荷が必要である。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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