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ATX電源の修理 〜1台目〜Wired, Weird(2/3 ページ)

» 2013年12月16日 10時00分 公開
[山平豊内外テック]

1台目の修理

 まずは修理がやさしいと思われる1台目の電源を手掛けることにした。電源の仕様や構造を理解するためネットからATX電源の情報を収集した。幸運なことにATX電源の200Wの回路図がWeb上に開示されていた。

情報収集

 修理品は出力容量400Wの電源で、Webの回路図と実際の修理品の回路図は少し違う。しかし電源回路の考え方を把握するには十分な内容だった。回路図に記載されている電源制御ICのTL494が修理品の基板にも搭載されていて、データシート(データシートへのリンク)を確認してICの動作が把握できた。

 この電源は5種類の出力を持つマルチ出力電源であるが、回路図から判断すると各電源出力の過電圧はきちんと監視されている。しかし、過電流は監視されていないようだ。またこの回路図からAC115VとAC230Vの切り替え方法も見て取れる。

 AC115Vの低圧時は倍電圧整流方式でAC230Vの高圧時は全波整流方式を採用している。つまりAC115V入力では倍電圧整流で一次側の電圧を2倍に上げDC300Vの一次電源を作り、AC230Vでは全波整流を行うことでDC300Vの一次電圧を作っている。

回路図作成で見えてきた「倍電圧整流」

 AC電源の自動切り替え方式をWebで検索したが、なかなか良い情報はなかった。このため、修理品から自動切り替えの基板を外して部品の接続を追って、回路図を作成した。まずは整流ブリッジ回路部の接続図を図2に示す。

【図2】整流ブリッジ回路部の接続図

 

 図2に示したブリッジ回路から全波整流と倍電圧整流が理解できる。

 もう少し詳しく説明しよう。回路図上のC点と右のB点に注目してほしい。この2点がつながっていなければ、コンデンサを直列接続した全波整流回路になることはすぐに分かるだろう。AC端子の上側が+の場合、一番上のダイオードを通して右側のコンデンサの+側から下段のコンデンサの−側に電流が流れ、上から2番目のダイオードを通してAC端子の下側に電流が流れ、コンデンサを充電している。ACの極性が逆になると3番目と4番目のダイオードを通して右側のコンデンサを充電している。

 では、C点とB点が接続されたらどうなるだろうか? AC端子の上側が+の場合は、下側のコンデンサの+端子に電流が流れ、コンデンサの−端子から2番目のダイオードを通して下側のAC端子に電流が流れ、下側のコンデンサが充電される。ACの極性が逆の場合は3番目のダイオードを通して上側のコンデンサの+端子に電流が流れ、上側のコンデンサが充電される。コンデンサは直列接続されていて、2つのコンデンサの電圧を足し合わせれば、その電圧は入力電圧の2倍の電圧になる。これが倍電圧整流回路である。

 次に修理品の基板から確認した自動切り替え基板の回路図を図3に示す。

【図3】自動切り替え基板の回路図

 図3の回路図で、A点、B点、C点は図2のブリッジ回路に接続される。図3のC点とB点はトライアックで接続されている。つまりトライアックがオフの場合は全波整流、オンの場合は倍電圧整流の動作となる。

 オン/オフの切り替えはA点の電圧をモニターして行われていた。A点の電圧はU1のシャントレギュレータ(TLP431)でモニターされ、U1のゲート電圧が2.5Vより低いとU1はオフするので、A点の電圧は抵抗R1、ツェナーダイオードD2、抵抗R4、ダイオードD4、抵抗R5でトライアックのゲートに接続され、U1がオフの時にトライアックはオン動作する。つまりAC電圧が低い時はトライアックをオンさせて倍電圧整流が行われる。U1がオンするA点の電圧はU1のしきい電圧と周囲の抵抗で計算できVa=2.5V/1.2K×(100K+1.2K)で計算される。この値はDC210Vの電圧となるが、AC電圧に換算すると約149Vである。つまりAC電圧が150Vを超えた電圧になると全波整流動作、それより低い電圧では倍電圧整流の動作になるように設計されていた。ここまでの調査で修理するATX電源の動作はほぼ把握できた。

動作状況を確認

 では、1台目の電源の修理に戻ろう。

 電源にAC100Vを印加する前に入力回路を確認してみた。マルチメータで確認したら、ヒューズやダイオードブリッジは正常に動作した。またAC端子の抵抗値は数100KΩあり短絡はしていない。次に、DC12V程度の電圧をAC端子に供給し一次側のコンデンサの端子電圧を確認した。DC10V程度の電圧があり、極性を変えても同じ電圧だった。つまり整流回路は正常に動作し、AC100Vの電圧を供給しても大丈夫そうだ。

 万一のことも考え、手元スイッチを通して電源にAC100Vを供給した。一次側の整流後のコンデンサの電圧を確認したら、DC140V程度しかない。どうやら自動電圧切り替え回路がオフになって正常に動作していないようだ。一度AC電源を切ってAC電源の自動切り替え基板を詳細に観察した。

 すると……、図3のA点に相当するコネクタを抜いたら軽く抜けてしまった。

【図4】コネクタ部分の写真 (クリックで拡大)

「あっ!」これが動作不良の原因だ。

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