電圧レギュレーター回路に使われるPWM(パルス幅変調)コントローラーICに搭載されるパワーグッド信号出力機能とイネーブル制御機能を利用してラッチ・オフ機能を低コストで追加する回路を紹介する。
電源回路には故障対策が欠かせない。過電流などの故障状態に陥った際に電圧レギュレーターの動作を停止させ、停止状態を維持する「ラッチ・オフ機能」を用意しておく必要がある。ところが電圧レギュレーター回路に使われるPWM(パルス幅変調)コントローラーICは、ほとんどがこのラッチ・オフ機能を搭載していない。
ただし、こうしたICにもパワーグッド信号出力機能とイネーブル制御機能が搭載されていることが多い。これらの機能を利用すれば、ラッチ・オフ機能を低コストで追加できる。具体的には、PWMコントローラーICに低電圧検出IC「LMS33460」(IC1)を組み合わせる(図1)。IC1のパッケージは5端子のSC-70で、実装面積の増加はごくわずかで済む。この他に必要なのはダイオードと受動部品が数個だけである。
3.3V出力の電源回路を考えてみる。電源回路自体は5V電源で動作するとしよう。システム・イネーブル入力の論理レベルをハイレベルに設定すると、コンデンサーC1の上端の電圧は急速に上昇し、5Vに達する。この状態では電源回路の出力電圧は設定値(3.3V)に達していないため、PWMコントローラーICのパワーグッド信号出力(PGOOD)ピンの論理レベルはローレベルにとどまり、抵抗R1を介してC1を充電する。
システム・イネーブル入力の論理レベルをハイレベルに設定した瞬間は、C1の電圧はゼロである。従って、IC1のVIN入力(5番ピン)の電位はいったん5Vにプルアップされ、その後C1とR1、R2によって決まる時定数で低下し始める。
電源回路に何らかの故障が発生したとしよう。すなわち、IC1のVINの電位が3Vより低くなっても電源回路の出力が設定値(3.3V)に達しない場合である。この場合、IC1のVOUT出力(4番ピン)の論理レベルがローレベルに変化する。この結果、PWMコントローラーICのイネーブル制御(ENABLE)ピンの論理レベルもローレベルになり、電源回路をオフ状態に設定する。
次に、電源回路が正常に動作している場合を考えてみる。電源回路の出力は、IC1のVINピンの電位が3Vより低くなる前に設定値(3.3V)に達する。PGOODピンの論理レベルがハイレベルに変化し、C1が放電を始める。するとIC1のVINピンの電位は上昇し、PWMコントローラーICの動作状態を保持する。
R2は、電源回路がラッチ・オフ状態になってもIC1が動作できるように、IC1に数ボルトの電圧を印加し続ける。ダイオードD1は、システム・イネーブル入力がローレベルに切り替わった際に、PWMコントローラーICのENABLEピンをプルダウンする役割を果たす。C1は小型のタンタル・コンデンサーあるいはセラミック・コンデンサーでよい。ただし、セラミック・コンデンサーの場合、温度特性がX5R特性のように良好な品種を選択すること。
また電源回路への供給電圧である5V電源が1ms程度で立ち上がった場合には、電源回路はPWMコントローラーICのENABLEピンの状態によらず動作する可能性がある。
図2と図3に、オシロスコープで観測した電源回路各点の電圧波形を示した。
図2は電源回路が正常に動作を開始した場合、図3は2チャンネル出力を備えた電源回路において一方の出力が短絡状態になった場合である。いずれの図も、1番目の波形がシステム・イネーブル入力信号、2番目がIC1のVINピン、3番目がIC1のVOUTピン、4番目が電源回路の出力における電圧波形を示す。
図3から分かるように、電源回路に故障が発生すると、IC1のVINピンの電圧が3Vを切ったところでPWMコントローラーICのENABLEピンがローレベルに設定され、電源回路をラッチ・オフする。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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