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5G実現に求められる新しいアンテナ測定方法計測器メーカーから見た5G(3)(1/2 ページ)

5Gで求められている超多数接続の実現のために議論されている、Massive MIMO(大規模MIMO)とアンテナ技術。連載第3回目となる今回は、2つの新しいアンテナ測定方法を提案する。

» 2016年10月20日 11時30分 公開

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同時接続数の増加に伴う課題

 スタジアムや空港など大人数が高密度に集まる場所において、現行の4G(第4世代移動通信)では接続しにくい場合がある。5G(第5世代移動通信)では、このような過酷な環境でも高品質な通信を可能にすることが求められている。具体的には、4Gの1000倍のシステム容量ともいわれている同時接続数を実現することで、この問題を解決することが5Gにおける課題の1つである。

 同時接続数を増加させる最も容易な方法として、ネットワーク内の基地局の数を増やすことが挙げられる。しかし、図1からも分かるように、基地局数を増やすには基地局の設置場所の確保だけでなく、各基地局のエネルギー消費や維持などに掛かるシステム運用コスト(OPEX)が、これまで以上に掛かってしまう。従って、基地局の数を増やす方法は、運営社と利用者どちらの立場からも得策とは言い難い。

図1:セルラーネットワークの収益と費用 (クリックで拡大)

 そのため、基地局の維持費やエネルギー消費を低減しながら、大容量の接続数をカバーする新たな技術の採用が求められている。Massive MIMO(大規模MIMO)と仮想化が検討されているが、本連載ではMassive MIMOを中心とした議論を行う。

MIMO技術

 MIMOは、並列なデータストリームを送信することで、波形や多重アクセススキームなどに影響されず、セル容量とデータのスループットなどを改善できる技術である。

 現行の4Gシステムにおいて、ユーザー機器は、主に逆チャンネル行列を用いてデータストリームを取得するシングルユーザーMIMO(SU-MIMO)を用いている。これにより、データレートの向上やリンク可能な距離が改善されている。

 5Gでは、スループット向上のためだけではなく、同時接続数を改善できるマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)、さらには、多数のアンテナ素子を用いたMassive MIMOの導入が検討されている。それらを用いることで、異なるユーザーに対して異なる電力レベルによる伝送や、ビームフォーミング技術を用いた指向性の高い電波による通信が可能になる。これにより、同時接続できる端末数を飛躍的に増やすことができる。図2のように、ビームフォーミングを採用することは、これまで端末が受信していなかった余分なエネルギーを低減させ、隣接する端末への干渉も低減させることにつながる。

図2:SU-MIMOとMU-MIMOのビームフォーミングにおける、放射電波の電力比較 (クリックで拡大)

 ビームフォーミングを実現するには、複数のアンテナ素子を配列したアレイアンテナの採用が必要なだけでなく、ビームフォーミングを搭載した端末のビームの指向性を確認するため、OTA(Over the Air)による評価がこれまで以上に重要になる。

アレイアンテナの評価

 Massive MIMOのアレイアンテナでは、6GHz以下の周波数を利用する場合でも、物理的なサイズの制限やインサーションロス、システムの複雑性の問題により、端末にアンテナポートを搭載することが困難になる場合が考えられる。センチ波/ミリ波を利用する場合、この問題はより顕著となる。そのため、従来のアンテナポートを用いた試験が困難となる一方で、アクティブに指向性を変えるビームフォーミングの評価では、実際のアンテナパターンを測定して評価することが求められる。

図3:エレメントのアレイアンテナの3Dアンテナパターン測定例 (クリックで拡大)

 そこで、OTAでの評価が重要となる。OTA評価は、図3に示したような3次元のアンテナパターンを、アンテナ近くでのニアフィールドか、波長やアンテナサイズと比較して十分遠方のファーフィールドのいずれかで評価する方法がある。ニアフィールドにおける測定では、最終的に求められているファーフィールドの結果への変換が必要になるが、測定対象のサイズに応じて、比較的小さな電波暗箱を用いた測定ができる。ファーフィールドの測定には、大規模なシールドルームが必要となる場合もある。

 例えば端末のような比較的小さな機器では、測定波長に応じた小さな暗箱で十分ファーフィールドの要件を満たすことができる。そのため、ニアフィールド/フォーフィールドの測定において、大規模なシールドルームを必要とせずに測定が可能である。

 基地局やMassive MIMOなどの比較的大きなデバイスの場合、ファーフィールドでの測定を担保しようとすると大規模なシールドルームが必要となる。また、1回の測定に要する時間も大きな課題だ。一般的に、OTAによるアンテナ評価では、1回の測定に数時間を必要とする。ダイナミックに指向性を変化させるアンテナでは、実際のパターンを評価するために複数回指向性を変化させて、同様の測定を実施することが求められる。

 5Gでは、アンテナポートのないアンテナを効率良く、評価可能な測定システムを構築することが大きな課題として存在する。ビームフォーミングを搭載したアンテナの量産テストでは、指向性の評価をいかに迅速に行うかも重要な課題の1つである。

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