磁性体のB-H曲線などにみられる特性で、新しい状態が過去の状態によって左右される現象です。
これはフェライトの結晶粒の内部に多数の微小な結晶欠陥が存在するためであり、磁界の増減にともなって移動する磁壁がこの結晶欠陥を乗り越えるには一定量のエネルギーが必要なためです。このため、同じ磁界においても往路と復路では異なった磁束の状態にとどまることになります。
また、磁壁は磁気モーメントの回転という形でエネルギーを持ち、磁性体のエネルギーを最小化しています。
しかし、磁壁(=反転部位)の移動自体はエネルギーの移動ですから無損失です。
注)磁壁の中では分子構造が変わっているわけではありません。2つの電子スピン状態が磁気モーメントに対応していること、隣り合う磁区間では磁気モーメントが反転していること、磁壁を含む隣接の磁区間では磁気エネルギー最低状態であること、に注目すれば、磁気エネルギー最低状態には2つの方向があることが分かります。そして最低と最低の間には最低でない方向も存在します。磁壁内で磁気モーメントがスムーズに反転するためにはこのエネルギー最低状態でない状態も存在しなければなりません。このため磁壁にはエネルギーが存在することになるのです。
磁性体の損失には大きく分けて次の2種類の損失があります。
【1)ヒステリシス損失】
前記の特性によって磁性体に交流磁界を与えた場合のB-H曲線、いわゆる"ヒステリシスカーブ"は図4のような反時計回りの膨らんだ曲線となります。
この磁性体の入出力のエネルギー収支をB-H曲線上で考えてみると、
・励磁時の入力エネルギー
−Br(H=0)→Bmまでに相当する電圧Vinと、0→+Hmまでの励磁電流
・減磁時の放出エネルギー
Bm→Br(H=0)までの誘起電圧Voutと、+Hm→0までの電流
となります。
つまり、加えた電流は全部放出されますが、電圧については残留磁束密度Brの2倍が放出されていないことが分かります。これがヒステリシス曲線の半サイクル分のエネルギー損失で、この2倍の値が1サイクルでの損失と見なせます。
また、図2、図3や前述の説明から分かるようにヒステリシス損失は磁壁の移動に要するエネルギーです。この様子は1式のスタイン・メッツの実験式で表されますが、当然周波数fに比例します。
Ph=Kh・f・Bm1.6 ……1式
Ph:ヒステリシス損失 Kh:比例定数 Bm:磁束密度 Hm:与えた磁界の強さ
ヒステリシス損失を減少させるには結晶欠陥を減らして磁壁の移動をスムーズにします。
なお、Bmの1.6乗に比例するということは図5に示すように、B−H曲線がBmの増加と共に太くなることを意味しています。
【2)渦電流損】
時間変化する磁束が導体を通過した場合、電磁誘導によって導体内に電圧veが誘起され、その結果として導体の中を短絡電流が流れます。この短絡電流を渦電流ieと言います。
また、誘起電圧veは(ve∝f・Bm)であり、電流経路の抵抗Rは導体の抵抗率ρに比例します。ですから、渦電流ieが流れれば、2式に示すジュール損が発生します。この損失を渦電流損と言います。
また、コアだけではなく、導電性材料であれば銅線に磁束が鎖交してもこの損失は発生します。
Pe=ie2×R=ve2/R=Ke・f2・Bm2/ρ ……2式
Pe:渦電流損 Ke:∝定数 ρ:抵抗率
渦電流損を減少させるには
このような条件を満たすには磁性体を微粉末に粉砕し、表面を絶縁処理して、再度成形した焼結系の材料が有意であることが分かります。(フェライトコア、ダストコアなど)
フェライトの中でもNi系フェライトは抵抗値が高く、渦電流の面では有利ですが、低周波(500KHz以下)ではMn系フェライトに対してヒステリシス損失が大きくなるので使用する周波数帯域や用途が限られます。
注)ここでは磁性を積極的に利用する場合の母材になる磁性体をコアと称します。
B-H曲線はコアに加えられた磁界の強さ(H)とコア内の磁束密度(B)で表記されますが、それぞれ励磁電流(I)と、電圧(V)に1:1で結びついていて励磁電流と誘起電圧で測定することも可能です。
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