この連載の最終回にあたる第3回では、電圧モードで動作し漏れインダクタンスの影響を受けるCCMフライバックコンバーターの小信号応答について検討します。第2回で紹介した更新後の大信号モデルから、最も簡潔なリニアバージョンを確立する目標に向けてステップ形式で作業を進め、徐々に簡略化した小信号回路図を導き出します。この最終的な回路に基づいて、制御側から出力側への伝達関数を抽出し、漏れインダクタンスが伝達関数の分母である品質係数にどのような影響を及ぼすかを示します。
複雑な回路の伝達関数を導出する目的は、複雑さを軽減して、簡潔な回路図で解析を実行できるようにすることです。項の分解、式の簡略化、可変要素の無視などを通じて、回路の整理を進める過程で、新しい回路をテストし、その応答を元の回路と比較する必要があります。元の回路についてはこの説明の冒頭で示します。元の応答と次の簡略化されたバージョンに違いがある場合は、ミスをした、ないし、作業の前提となる想定を簡略化し過ぎたことを意味します。その場合は回路を廃棄し、前のステップに戻って作業をやり直します。これらの手順に従って、ゆっくり着実に作業を進めます。ただし、ミスがあった場合に直ちにそれを検出し、修正する必要があります。最終段階でエラーが判明し、中間ステップのどこかで間違いを犯したことに気付くことほど、いら立たしいことはありません。
最初にできる作業は、大信号PWMスイッチモデルを、第2回で紹介したその小信号バージョンに置き換えることです。次にACシミュレーションを実行して、動作ポイントと応答が同一であることを確認します。非線形モデルを図1、小信号バージョンを図2に示します。デューティ比は2つの信号源に分割されています。1つは静的デューティ比に対応し、2番目はAC変調、つまり小信号式におけるd^に対応します。バイアスポイントは図1に示したものと同じです。つまり、この最初のステップはDCの範囲では正しいことが分かります。これら2つの回路の周波数応答を比較した結果を確認してみましょう。ボード線図を集約した結果が図3です。振幅曲線と位相曲線を重ね合わせてあり、最初のステップが検証できます。
図2は正しい回路ですが、かなり複雑です。前述したように、小信号解析は、回路をできるだけ簡略化すること、さまざまな部品をより有意義な単一アーキテクチャに再編成することを意味しています。
接続するPWMスイッチモデルは確かに線形化バージョンであり、このモデルで作業をする必要はありません。ただし、ピーク電流と谷点電流の計算対象となる全ての信号源、クランプ電圧などは、依然として大信号形式の表現であり、線形化する必要があります。幸い、これらの信号源の一部、例えばIpやd2は今回のAC解析には必要ありません。
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