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ヒューズ(4) ―― ヒューズの使用上の注意点中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(10)(3/3 ページ)

» 2017年07月27日 11時00分 公開
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ヒューズの一般的な注意事項

 次に一般的なヒューズの取り扱いや使用上での注意事項を示します。

表1:ヒューズの使用上の注意点
No. 内容
1 シリーズ接続 マスターヒューズの負荷側に個別ヒューズを設ける場合、負荷側が先に溶断するように定格、溶断特性を考慮してください。
2 電圧波形 ヒューズのAC定格は50/60Hzを前提にしていますので、スイッチング波形のように断続される高周波のDC電圧ではDC定格のヒューズを選定してください。(アークによる続流発生)
3 電流波形 機器の異常時、定格動作波形のみならず、起動・停止時・瞬時停電時、および負荷切り替え時の瞬間的な電流波形に対してもi2tーT特性を確認してください。特に電源投入時は投入位相も確認してください。(i2tーT特性には溶断を保証する値と溶断しないことを保証する値があります)
パルス電流によってヒューズエレメントが収縮し機械的に劣化しますので、突入電流などが繰り返し発生する場合は印加回数によるディレーティングが必要です。許容曲線を入手してください。
I2t値はヒューズだけのものではありません。電流経路のトライアック、ブリッジダイオードなどのi2tと比較してヒューズが最初に溶断するように選んでください。
4 ヒューズエレメントの構造 多層構造の場合、導電率の高い層へ電流集中しますので高導電率層から劣化が進行します。結果として上記の突入電流の耐量を左右しますのでヒューズエレメントの構造と表面処理を確認してください。
5 電流波形測定 電流波形を抵抗で検出する場合は抵抗が電流波形に与える影響を確認して抵抗値“0Ω”に換算してください。また、電流プローブで測定する場合は使用するプローブの周波数特性、許容ピーク値を確認して測定波形を検証してください。
ACラインのインピーダンスの影響を受けますのでできる限りインピーダンスの低い環境で行って下さい。
また、電子式安定化交流電源ではピーク電流制限回路が動作して正しい電流値が測定できません。
6 機械的振動 使用時に機械的振動が加わるとヒューズエレメントが共振し、エレメントが劣化する場合がありますので機械的振動が発生しないように固定するか、緩衝構造を取ってください。
7 遮断電流 電源インピーダンスが低い場合、エレメントが溶けた瞬間のアークエネルギが大きくなり定格電圧以内であってもヒューズが破壊する場合があります。ヒューズには安全に遮断できる電流容量が設定されています。
 IEC向け機器の1次側での使用は高遮断容量(>1500A)が要求されます。
注:ヒューズの破壊(破裂)は安全規格上、不合格になります。
8 周囲温度 ヒューズの定格は25℃で設定されており、実使用に当たっては温度制限や温度ディレーティング要求があります。特にヒューズクリップの電流定格や接触抵抗による発熱、周辺部品による温度上昇などによって思わぬ短寿命・原因不明のヒューズ溶断につながることがあります。
9 はんだ付け ヒューズクリップとヒューズリンクを組み立てた状態ではんだ付けをする場合は口金温度を確認してください。口金温度が許容値を超える場合は絶縁性のダミーのヒューズリンクを挿入してはんだ付けを行い、はんだ付け後に正規のヒューズと置き換えてください。
面実装品やリード線付きのヒューズ使用する場合は端子部や口金部分の温度を確認してください。特にスルーホール部は熱伝導率が高く、はんだ量も増加しますのではんだ付け部の近傍に存在すると端子部や口金部分が高温になりエレメントが劣化する場合があります。箔形状も影響しますのでモデルごとに温度を確認してください。リードを短くカットした場合も同様な注意が必要です。
10 溶断特性 電気用品安全法には従来からの省令1項と、IECとの調和規格である省令2項の2つの基準があり、互いに溶断特性が異なります。使用箇所による必要溶断特性を誤ると適切な保護ができません。
 (省令2項のヒューズは溶断しにくので消費者向け市販はされていません)
11 ヒューズ
クリップ
ヒューズクリップには電流定格があります。ヒューズリンクの電流定格を考慮して選択してください。
接触抵抗を減少させるため剛性を高くすると挿入圧が高くなりクリップの変形に繋がります。落ち込み防止機能や変形防止機構のついたクリップを使用してください。
12 安全規格
(距離要求)
ヒューズ単体にも距離要求がありますが、回路上でもヒューズ開放後の電圧に応じた距離が要求されます。距離がない場合はヒューズが短絡されて試験されますが、プリント基板の箔の溶断は不合格です。
13 バリスタ保護用
ヒューズ
バリスタをACライン〜接地間、ACライン間に用いる場合はバリスタ保護のヒューズが要求されます。バリスタの吸収電流で溶断せず、異常時には溶断できる指定の定格のヒューズを指定の回路位置へ挿入します。バリスタによって指定の定格電流値がありますので指定値に従ってください。
14 面実装品 基材には曲がりやすい方向があり、また基板形状の長手方向は曲がりやすくなりますので曲げストレスを考慮した部品配列をしてください。
また分割基板は分割時の衝撃によって面実装品にダメージを与えますので分割ラインからの距離、方向、分割方法を確認してください。
15 環境特性 ヒューズは機密性ではありませんので一般電子部品の保存・使用環境に応じた環境が必要です。
(水分・塩水・薬品・有機溶剤などの液体、直射日光への暴露・塵埃・結露、硫化水素・アンモニアなどの有害ガスなど)
16 溶剤・洗浄 ヒューズは機密性ではありませんので洗浄液が侵入しないようにしてください。また超音波洗浄では振動でヒューズエレメントが劣化する場合があります。
17 コーティング ヒューズを樹脂などでコーティング・ポッテイングを行うと樹脂硬化による応力や伝熱条件の変化によって溶断特性が変化したり、原因不明の断線が発生したりする時があります。
18 フォーミング リード付きヒューズを曲げ加工する場合は応力がヒューズリンクに及ばないように配慮してください。
19 保管 ヒューズには納入箱に品番、生産ロット、納入個数、生産者名が記載されたラベルが必ず同梱されています。このラベルはULなどの安全規格認定機関の監査時に必要になりますので管理、保管が必要です。

 ヒューズについては今回で終わり、次回からは「サーミスター」について説明します。

※参考資料 JEITA RCR-4800

執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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