今回は、前回に引き続き、NTCサーミスタを用いた突入電流制限回路に関する注意事項を紹介していきます。
前回説明した通り、NTCサーミスタを用いることで実質的に突入電流を問題のないレベルで制限できます。しかし、瞬間的とはいえ、大きな電力を扱うので使い方によっては故障率が著しく変動します。今回は前回に引き続き、突入電流制限回路にNTCサーミスタを用いる場合の注意点について説明します。
なお、サーミスタはUL1434などの安全規格の対象部品です。つまり、多くの国で法律、もしくは同等の規制の下に置かれるものですので、常に安全規格の最新版を参照し、優先してください。
前回説明したようにNTCサーミスタは高温で抵抗が小さくなりますが、小さくなるとは言っても0ではない抵抗が残るので通電によって自己発熱が発生します(参考図)。
ディスク形状であるので形状を大型化すれば放熱量は増加できますが、それにも限界がありB定数が物性的な制限で大幅に変えられない以上、損失は残ってしまいます。
したがって、実質的に入力電力には上限が生じて、NTCサーミスタでスイッチング(SW)電源の突入電流を制限できるのは連続出力で50〜70W程度が上限になります。
しかし、価格要求との兼ね合いから100W超クラスの電源でもNTCサーミスタを使用しなければならないケースが時として発生します。この時に注意をしなければならないのは最適のサーミスタを使っても入出力の条件によっては許容温度を守ることが困難になる条件があるという点です。
サーミスタ本体はセラミックスやエポキシなので120℃程度まで使用できますが、リードのハンダ部が温度を超えてしまうのです。
このハンダ付け部の温度は接続の信頼性に直結し、温度対策が必要になります。例えばハンダ付け部の寿命を10年(6万時間)程度と考えれば、ハンダの温度は最高周囲温度時でも100℃以下には制限*)しなければなりません。
温度を下げる手法としては損失を下げる以外にも放熱抵抗の低減が考えられます。
本体の温度がハンダ部へ伝わる前に空気中に放熱できれば良いので、図1のようなオクタルピンを基板上に挿入し、このオクタルピンにサーミスタのリードを挿入する方法は温度低減に有効です。
ハンダ量も確保でき、なおかつ、部品倒れ対策も同時にできますが、オクタルピンは手挿入になるので工程設計を工夫する必要があります。
*)ハンダのエレクトロ・マイグレーションは100℃を超えると活性化が進むといわれています。
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