誘電体(ケーブルではポリエチレンなど、FR4基板ではガラス繊維とエポキシ樹脂の複合材料)を挟んだ2つの導体間に電位差があるとそこに電界が発生し、誘電体に電気分極(誘電分極)が起こります。
電気分極はコンデンサーの電気をためる機能の説明でも図4左のような簡易的な図で説明される場合が多いようですが、ここでは原子の構造を基に説明していきます。
誘電体の原子はマイナスの電位を持つ電子とプラスの電位を持つ陽子で構成されていて、通常は図4中のように電気的に安定した状態です。しかし電界を与えると図4右のようにマイナス電荷を持つ電子と陽子の位置関係がずれ、電子と陽子の間に電気的な偏りが生じます。磁石の極が分かれているのと同じように、原子自身に電気的な極性の偏りが発生する現象を電気分極と呼んでいます。
誘電損失は周波数が上がると電界の高速な変化に原子の電気分極が徐々に追い付かなくなり、高周波になればなるほどエネルギーが損失する現象です。
誘電損失は周波数fに比例して大きくなり、図2左グラフの緑線のように直線的に減衰します。
誘電損失を示す係数の誘電正接値(Tangentδ)が大きな材質では、高周波のインサーションロスは直線的に大きくなっていきます。
コンデンサーでは電力損失を少なくするため、誘電損失の低い材料を使用していますが、伝送路でも同様に誘電正接の小さな誘電体を使用することでインサーションロスを小さくすることができます。
シリアルデータの信号変化点(トグルタイミング)は伝送損失に関係なく一定です。ですが、伝送路の高周波での表皮効果による導体損失と電気分極による誘電損失の2つの損失特性により、減衰の少ない低周波からの信号のトグルタイミングと大きな減衰の振幅の小さな高周波からのトグルタイミングは、図5のように縦方向の電圧レベルが異なり、重ね合わせると図5の赤線のようにISIジッタが現れます。
ケーブルで使用される一般的な誘電体のポリエチレンの誘電正接値は0.002程度とFR4基板の誘電正接値0.02程度に比べ約10倍小さい値です。そのため表皮効果の損失が支配的で、周波数の√fを係数とした傾向の強い減衰特性を持ちます。逆にFR4基板では誘電正接の値が大きく支配的となり、周波数fに比例した直線的な減衰特性の傾向が強くなります。
このようにインサーションロスの特性は伝送媒体により大きく異なるため、以下の1.〜5.の方法で伝送路中のインサーションロスを低減する最適な設計を行うことによりISIジッタの低減が可能になります。(その他に導体表面の粗さも減衰特性に影響します。)
これらの検討でインサーションロスが十分に低減できない場合はシグナルコンディショナーデバイスによるジッタの補償を検討します。
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