高精度デルタ-シグマADCの 有効ノイズ帯域幅(ENBW)の理解【算出方法】:アナログ設計のきほん【ADCとノイズ】(5)(4/4 ページ)
今度は、ADCのサンプルレートまたはアンチエイリアスフィルターのカットオフ周波数を変更したくなったとしましょう。これは、システムのENBWにどのように影響するのでしょうか。直感的には、既に見てきたように、カットオフ周波数が小さいフィルターがENBW計算において支配的であるのは当然と思われます。確かに、一般的には当たっています。
このことを説明するため、表2に、『ADS1262』の利用可能なデジタルフィルター出力データレートと対応するシステムENBWを、幅広いアンチエイリアスカットオフ周波数に対してまとめています。また、実質的にADCのカットオフ周波数の働きをする3dBポイントも示します。
表2:ADCデータレートとAAフィルターのカットオフ周波数がシステムENBWに与える影響(*「ADS1262」計算ツールから取得)
表2では次のように状態を色分けして表しています。
式2と式3で表される条件のうちの1つが正しいとすると、システムENBWと個々のフィルターのカットオフ周波数との相関関係により、複雑な積分を行わなくてもシステムのENBWの概算を求めることができます。
F3dB (ADC)がfc (AA filter)に比較的近いなど、どちらの条件も正しくない場合は、このセクションで述べてきた積分を行う必要が出てきます。それだけでなく、これらの条件は、フィルター段をいくつ追加しても、そのフィルターのカットオフ周波数がADCまたはアンチエイリアスフィルターのものよりずっと大きい限り、一般的に当てはまると考えられます。このような場合は、フィルターのENBWを計算しなくてもよいため、解析が簡単になるでしょう。
次回(第6回)は、内蔵および、外付けのアンプをシグナルチェーンに追加することで、デルタ-シグマADCのノイズについて引き続き考察します。
以下は、デルタ-シグマADC内のENBWをより良く理解するうえで重要なポイントをまとめたものです。
- ENBWは通常、カットオフ周波数が最小のフィルターに左右されるが、これは特に高精度デルタ-シグマADCでは、通常はアンチエイリアスフィルターかデジタルフィルター
- アンチエイリアスフィルターは、低周波数ではなく高周波数時のノイズを除去
- ENBWの算出には、直接積分する方法を用いることもできるが、多くの場合にADCの3dBポイントまたはアンチエイリアスフィルターのカットオフ周波数を使って概算値を求めることが可能
テキサス・インスツルメンツ 高精度ADC製品プロダクト・マーケティング・エンジニア
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