今回は、次のようなENBWについて「ENBWとは何か」「ENBWが必要な理由」など基本的なトピックを紹介します。
アナログ/デジタルコンバーター(以下、ADC)のノイズを把握するのは、経験豊富なアナログ設計者であっても難しいものです。デルタ-シグマ(ΔΣ)ADCには、ADCの分解能、リファレンス電圧、出力電圧によりさまざまに異なる量子化ノイズと熱ノイズが複合して存在します。システムのレベルではさらにシグナルチェーン部品が加わりますが、その多くは異種のノイズ特性を持ち比較が難しくなるため、ノイズ解析はより複雑になります。
しかし、システムのノイズを予測しようとするなら、各部品のノイズがどれくらい影響するか、ある1つの部品のノイズが他の部品にどのように影響するか、支配的なノイズ源はどれかなどを理解しなければなりません。難しいことのように思えるでしょうが、シグナルチェーンの有効ノイズ帯域幅(ENBW)を用いれば、この作業が簡単になります。
そのためにも、デルタ-シグマADCのノイズに関する連載第4回の今回は、次のようなENBWについての基本的なトピックを主に扱います。
次回(第5回)でも引き続きENBWを取り上げ、2段フィルターを使用するシンプルな設計例を通して、次のようなトピックを考察します。
ENBWは抽象的な概念なので、簡単な例えとして、寒い日のドアと窓を考えてみましょう。光熱費を下げてお金を節約するには、家の中に入ってくる冷たい空気の量を制限するために、すべてのドアと窓をなるべく開けないようにする必要があります。この場合、家がシステム、ドアと窓がフィルター、冷たい空気がノイズ、ENBWはドアと窓をどれくらい開けているか(あるいは閉めているか)の測定値です。図1に示すように、開き方(ENBW)が大きいほどたくさんの冷気(ノイズ)が家(システム)の中に入ってきますし、開き方が狭いと冷気もあまり入ってきません。
一般的な信号処理の用語では、フィルターのENBWとは、ノイズ電力が元々のフィルターのノイズ電力(H(f))とほぼ同じである理想的なブリックウォールフィルターのカットオフ周波数fcのことです。この定義をドアと窓の例えに重ねると、システムのENBWはドアと窓それぞれの開き具合を組み合わせて、そのすべてに等しく当てはまる1つの定義可能な値にしたものに相当します。このように単純化することで、「冷気」がどれくらい入ってくるかをずっと把握しやすくなります。
一例として、シングルポールの抵抗コンデンサー(RC)ローパスフィルター(図2の上図)を理想的なブリックウォールフィルター(図2の下図)に単純化してみましょう。そうするには、積分を用いて実際のフィルター応答のもとでのノイズ電力を計算します。この計算値が元のフィルターのENBWです。これが理想的なブリックウォールフィルターのカットオフ周波数(fC)になります。
この場合、直接積分する方法を用いてシングルポールのローパスフィルターのENBWを求められますが、元のRCフィルターの3dBのポイントとそのENBWとの相関を表す次の式1を使用することもできます。
この式がどのように導き出されたかは、アンプのノイズについてのWebページをご覧ください。
このシンプルな例の場合、ENBWは、実世界のフィルター応答を理想的なフィルター応答に変換したものとして定義されます。しかし、なぜこの手法を使用するのでしょうか。また、ノイズ解析計算を単純化するのにこの手法がどのように役立つのでしょうか。それをこれから考えていきましょう。
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