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SiC登場で不可避な電源回路シミュレーション、成功のカギは「正確な実測」ダブルパルステスターで高精度なデバイスモデルを(3/5 ページ)

» 2019年09月11日 11時11分 公開

従来はパルス幅が広すぎた

 今回は、指摘した2つの測定技術課題のうち、1つ目に挙げたI-V特性の大電力領域に関する課題を解決する方法を紹介する。それは、「ダブルパルステスター」と呼ぶ測定装置を活用する方法である(図6)。端的に言えば、この測定装置を使えば、I-V特性の大電力領域を高精度で測定できるようになる。以下で、その理由を詳しく説明しよう。

図6:ダブルパルステスター
デバイスモデルに不可欠なパラメーターの測定のほか、SiC/GaNパワー・デバイスの評価に使える(図は、キーサイト・テクノロジーが2019年5月に発売したダブルパルステスター)

 まずは、I-V特性を測定する従来方法について簡単に触れておく。これまでは、パワーデバイスアナライザーと呼ぶ測定器(例えば「B1505A/B1506A」[=キーサイト・テクノロジー製]など)を使って測定するのが一般的だった。このパワーデバイスアナライザーと呼ばれる測定器はもともと、トランジスタの静特性を高精度で測定する用途に開発されたものである。大電流の供給と高電圧の印加を可能にするSMU(ソース・メジャー・ユニット)と組み合わせて、パワーデバイスの評価に利用してされてきた。

 しかしパワーデバイスアナライザーはそもそも、トランジスタの静特性測定に向けて開発されたものであり、非常に狭いパルス幅の信号は出力できない。電流供給の経路に寄生インダクタンス成分が存在することと、パルス信号を安定して立ち上げられるように設計しているからだ。通常、パワーデバイスアナライザーの最小パルス幅は10マイクロ秒である。大電流供給時にはこれが50マイクロ秒になり、実際に大電流に達するときには100マイクロ秒まで広がっている。これだけ広いパルス幅の信号を供給すると、パワーデバイス自体が発熱し、特性が大きく変化してしまう。そのため、ドレイン-ソース間電圧が高いときはドレイン電流の少ない領域だけ、ドレイン電流が大きいときはドレイン-ソース間電圧が低い領域だけしか測定できなかった。

 ただし、SiパワーMOSFETでは既存のパワーデバイスアナライザーによる測定で問題なかった。なぜならば、SiパワーMOSFETのI-V特性は、大電力領域ではフラットな特性を示すことが分かっているからである。ドレイン-ソース間電圧が高いときはドレイン電流の少ない領域だけ、ドレイン電流が大きいときはドレイン-ソース間電圧が低い領域だけを測定し、大電力領域についてはほぼフラットになるように外挿すれば、比較的精度の高いI-V特性が求められた。

 ところがSiC/GaNパワーデバイスは、そう上手くはいかない。例えば、SiCパワーMOSFETにはショートチャネル効果が存在するため、ドレイン-ソース電圧を高めて行くと、ドレイン電流はいずれ右肩上がりで増えていく。ただし、ドレイン-ソース電圧をどの程度まで高めればその効果が顕著になるのか。それは測定してみなければ分からない。

最小100ナノ秒のパルス信号を出力できる

 こうした問題を解決するのがダブルパルステスターだ。これは、パワーデバイスの評価に向けて、短いパルス幅の信号を供給することを目的に開発された測定装置である。実際には、1マイクロ秒未満のパルス信号を生成して出力できるファンクションジェネレーターとオシロスコープを組み合わせることで実現している。パルス幅は最小100ナノ秒まで短くできる。この程度のパルス幅であれば、パワーデバイスの発熱を最小限に抑えられる。大電力を供給してスイッチング特性を測定し、その測定結果から大電力領域のI-V特性を求めることが可能になる(図7)。

図7:大電力領域のI-V特性が測定可能に
ダブルパルステスターは、最小100ナノ秒のパルス信号を出力できる。このためパワーデバイスの発熱を最小限に抑えながら、スイッチング特性の測定が可能だ。この測定結果から、大電力領域のI-V特性を求められる。

 ダブルパルステスターには、もう1つ大きな特長がある。それは、1回のセットアップで、パワーデバイスのオフ特性とオン特性の両方を測定できることだ。これを可能にしたのは、パルス信号の打ち方の工夫である。読んで字のごとく、2発のパルス信号を続けざまにパワーデバイスに供給する。

 どのようなパルス信号を供給するのか。図8を見てほしい。

図8:ダブルパルステスターの波形

 まずはゲート-ソース間に1発目のパルス信号を供給する。すると、ドレイン電流が流れ始め、あらかじめ設定した電流値に達するまで増え続ける。その設定電流に到達するとパルス信号がオフし、ドレイン電流はゼロまで減少する。その後、2発目のパルス電流を印加すると、ドレイン電流は設定した電流値を起点に再び増加して行く。パワーデバイスのオフ特性は、1発目のパルス信号がオフしたときに、オン特性は2発目のパルス信号をオンしたときに測定する。

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