今回は導電性高分子キャパシターの特徴的な特性とその特徴に起因する使用上の注意点などを説明していきます。
前回は新しい電解質である導電性ポリマーの開発の歴史やメカニズム、導電性高分子キャパシターの大まかな構造について説明をしました。今回は導電性高分子キャパシターの特徴的な特性とその特徴に起因する使用上の注意点などを説明していきます。
導電性ポリマーとは前回説明したように電気を通すプラスチックの類(たぐい)です。共役系と呼ばれる構造を持つある種のポリマーは導電経路はあるものの自由に動ける正孔や電子などのキャリアがないので単体では導電性を発現しません。ですが、シリコン半導体のように微量な添加剤(ドーパント*)を付加して自由に動けるキャリアを注入することで導電性を発現させることができます。この作業(ドーピング)は化学ドーピングと呼ばれ、自由キャリアを生じるため有機物でありながら金属に匹敵する導電性を有することができます。
つまり、この導電性は金属と同様に電子や正孔が直接移動することで発現するので、従来のイオン伝導に起因する湿式の電解液とは異なる電気特性を示します。
* ドーパント:ポリマーに正孔や電子を与えて導電性を付加する添加剤。電子供与型(n-ドーパント)と、正孔供与型(P-ドーパント)があります。ポリアニリンやポリピロールなどは重合で電子を失って+に帯電しており、この状態で電子を与える(n-ドーパント添加)と電子は正孔付近に集まるため導電性をさらに高くすることができます。
電解質の電気伝導性発現メカニズムが自由キャリアに起因するため湿式アルミ電解キャパシターに比べて次のような特徴があります。
温度特性
広い温度範囲に渡り安定な電気特性を有しています。したがって湿式タイプのキャパシターを使用した回路設計においては低温での特性変動を確認する必要がありましたが、導電性高分子キャパシターでは諸特性の変動は少なくなります。
長寿命
湿式タイプのキャパシターのような電解液の蒸散による「ドライ・アップ現象」が発生しません。導電性高分子タイプのキャパシターにおいては「20℃10倍則」が成り立つと言われています。
この例に従えば、105℃品で使用環境が85℃の場合、導電性高分子タイプのキャパシターの期待寿命は10倍と長寿命化が図れます。
ただし、利点ばかりではなく次のような欠点もありますので使用に当ってはその得失を詳細に検討する必要があります。
定格 (μF) |
缶サイズ | 漏れ電流* ILeak(μA) |
等価抵抗 ESR(mΩ) |
リップル電流 Iripple(mARMS) |
等価損失 (mW) |
|
---|---|---|---|---|---|---|
A社高分子 | 6.3V220 | Φ6.3×10 | 277 | 20 | 3200 | 204.8 |
B社高分子 | 6.3V220 | Φ6.3×10.5 | 277 (=0.2C・V) |
20 | 3160 | 200.0 |
湿式同定格 | 6.3V220 | Φ5×11 | 13.9 (=0.01C・V) |
220 | 345 | 26.2 |
湿式同サイズ | 6.3V470 | Φ6.3×11 | 29.6 (=0.01C・V) |
94 | 540 | 27.4 |
*漏れ電流については計算式が表記されているものは計算式と結果を表記しています。 |
類似の定格品について静的な特性値を比較したものが表1です。この表から導電性高分子キャパシターは湿式アルミ電解コンデンサーに対して、
・漏れ電流が9〜20倍大きい。
・ESRが1/10〜1/5と小さい。
・缶の許容損失が7倍程度許容されている。
・許容リップル電流は6〜9倍許容されている。
ということが分かります。この特性比較から導電性高分子キャパシターは
1)漏れ電流が大きいので長時間タイマー回路や高インピーダンス回路には適しておらず、
2)許容リップル電流が大きいので平滑回路には適している。
と考えられます。
注)缶の許容損失はリード線からの放熱以外にも缶内の温度傾斜(ムラ)にも関係します。高分子キャパシターは液体や紙などが内部にないので缶内部の温度分布が均一に近い(熱伝導が良い)のだろうと考えられます。
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