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マイコンの周辺部品の選び方(発振子編) Q&Aで学ぶマイコン講座(74)(2/3 ページ)

» 2022年10月28日 10時00分 公開

マイコンの発振回路

 多くのマイコンには、2つの発振回路が搭載されています。図2にSTM32L476マイコンの発振回路の例を示します。上部がメイン発振回路で、下部がサブ発振回路です。

図2:マイコンに搭載されている発振回路[クリックで拡大]
STM32L476xxのデータシートのFigure 1. STM32L476xx block diagramから抜粋

 メイン発振回路の周波数は4〜16MHzで、これをマイコン内部で分周または逓倍して、主にシステムクロックとして使用します。一方でサブ発振回路は、主に時計機能用のクロックとして使用されるため、32.768kHzの水晶発振子をつなぎます。

 32.768kHzは、32768(2の15乗)分周すると1Hzになって、1秒を簡単に作れます。32.768kHzの水晶発振子は、百円均一のお店で扱っている時計などでも使われており、市場普及率が高いため、他の発振子に比べて安価で入手できます。

マイコンに2つの発振回路がある理由

 では、なぜマイコンには2つの発振回路が搭載されているのでしょう?

 例えば、メイン発振回路に4.194304MHzの発振子をつないで、4194304(2の22乗)分周すると、32.768kHzの発振子と同じように1Hz(1秒)が簡単に作れます。1秒の分解能も32.768kHzに比べれば細かいので、1秒以下の時間も微細な調整が可能です。

 しかし、着目すべきは、発振回路の電気的特性の中の消費電流です。図1に示したように、メイン発振回路の消費電流は最小で0.44mAです。一方、サブ発振回路の消費電流は最小250nAで、はるかに小さいことが分かります。これは、マイコンを低消費電力モード(参考:Q&Aで学ぶマイコン講座(28):いろいろなマイコンの低消費電力モードを理解する)で動作させる場合に影響してきます。

 低消費電力モードの中に、CPUを停止させて時計機能に関係する周辺機能だけを動作させるモードがあります。例えば、メインクロックを分周して1Hzを作ると、発振回路だけでミリアンペア単位の電流を消費することになります。時計機能を実現するには32.768kHzのクロックがあれば十分です。そこで、メイン発振回路に加えてサブ発振回路を設け、時計機能動作の際は、メイン発振回路を止めて、サブ発振回路だけで時計機能を実現するようにします。すると消費電流はナノアンペア単位まで低減でき、電池の寿命を伸ばせます。ユーザーにとっては部品数が増え、コストアップになると思われますが、前述したように32.768kHzの水晶発振子は安価なので、大きなデメリットにはなりません。製品の電池寿命を延ばすことの方が、発振子のコストよりも優先されます。

 時計機能について、もう少し詳しく解説します。時計機能では1秒をカウントするだけでなく、時刻を表示する必要があります。そのため、LCD(Liquid Crystal Display)機能も動作させる必要があります。LCD機能も32.768kHzで動作させられます。例えば、LCDのフレーム周波数も32.768kHzから生成できるため、サブ発振回路があれば、LCD機能は動作させられます。すなわち、時計のカウントアップと時刻表示のどちらも、サブ発振回路だけで動作可能です。

 では、逆にサブ発振回路だけ設けて、それを逓倍してシステムクロックに使えるのではないか?という疑問が生じると思います。メインクロックは数十メガヘルツ以上です。32.768kHzを数十メガヘルツ以上まで逓倍するには、かなり高い逓倍率のPLL(Phase Locked Loop)が必要です。逓倍率の高いPLLは回路規模/消費電流ともに大きくなるため、コスト/消費電力面で逆効果になります。発振回路をメインとサブで2つ設けた方が総合的に高効率となります。

 次に、発振回路の電気的特性について解説しますが、基礎知識として発振子の電気的特性について簡単に説明します。

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