マイコンに使用する発振子の電気的特性で、最も重要なのはESRです。また、最近のマイコンではあまり気にしなくても良いのですが、励振レベルのチェックも必要です。
(注意)発振子の電気的特性の詳細については、発振子のデータシートやテクニカルノートを参照してください。
発振子の等価回路を図3に示します。等価回路は、コンデンサー(キャパシタンス)成分、コイル(インダクタンス)成分および、抵抗成分で構成されます。これらの内、抵抗成分をESRと呼びΩで表します(R1またはRs)
ESRは、電流を通しづらくする働きがあるため、ESRの値が小さいほど発振し易く、大きいほど発振しにくくなります。マイコンの発振回路は、ESRに打ち勝って駆動しないと正常な発振は得られません。
励振レベルは、ドライブレベルとも呼ばれ、発振に際して発振子に供給される電力を指します。最大値で規定されていて、規定値を超えると異常発振を起こしたり、最悪の場合は損傷したりします。マイコンが発振子を駆動する際に、励振レベルの最大値を超えてはいけません。
マイコンの発振回路には、トランスコンダクタンス(Gm)という特性があります。
図1で示したSTM32L476マイコンの発振回路の電気的特性では、メイン発振回路のGmは1.5mA/Vです。サブ発振回路のGmはユーザーが調整可能で、最小値が0.5mA/Vです。
Gmは、発振子を駆動する能力を表すパラメータです。マイコンの発振回路で必要とされるGmは、発振子と基板のパラメータから算出されます。具体的には発振子のESRや基板の寄生抵抗などを総合して算出します。算出されたGmがマイコンのデータシートに記載されているGmよりも大きい場合には、発振子の駆動能力不足となり、安定した発振が得られない可能性が高くなります。この場合、マイコンの駆動能力を上げたり、ESRの小さい発振子に変更したり、基板の寄生抵抗を減らしたりするなど、パラメータの変更が必要です。
一方で、Gmは大きい方が発振しやすいという理由から、大きなGmのマイコンを使うと発振子の励振レベルの最大値を超えてしまい、異常発振を起こす恐れがあります。最近のマイコンは、消費電力を抑えるために発振回路のGmを必要最低限に抑えているので、励振レベルでトラブルが発生することはまれですが、古いマイコンだとGmが大きく、発振子を強力にドライブする場合があるため、古いマイコンと最近の発振子を組み合わせて使う場合には注意が必要です。
発振回路の評価には、さまざまな方法があります。発振回路のGmと発振子のESRの組み合わせの発振余裕度を評価するには、負性抵抗をチェックするのが最も簡単で信頼できる方法です。
詳しい評価方法は、発振子メーカーのWebサイトやテクニカルノートに詳しく説明されています。また、実際に具体的なマイコンと発振子の評価結果をWebサイトに掲載しているメーカーもあります。そのような資料をぜひ活用してください。
ユーザー自身が発振特性を評価する上で最も大切なことは、プリント基板の寄生容量や寄生抵抗も発振回路に含まれるため、これらの定数も含めて評価しなければならないということです。Webサイトに掲載されている評価結果はあくまで一般的な回路を使用したものなので、ユーザー個々のプリント基板の回路定数は含まれていません。
おすすめは、ユーザーの設計した発振回路のプリント基板ごと発振子メーカーに送って、評価を依頼することです。
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