米国TechInsightは、HuaweiがSMICの7nmプロセスによって、初の中国製5Gスマートフォン向けSoCを開発したと分析している。同社のレポートおよび関連報道が明らかにした詳細や、同社の今後について考察する。
中国のファウンドリーSMICの7nmプロセスノードで製造された、Huaweiの新たな5G(第5世代移動通信)スマートフォン向けSoC(System on Chip)が話題になっている。メディアでは、米国やその同盟国による半導体技術規制を受けた中国にとっての『勝利』だ、と取り上げられている。技術情報サービスを手掛ける米国TechInsightは、このHuawei製スマートフォン「Mate 60 Pro」を分解し、レポートを作成した(参考)。South China Morning PostやTom’s Hardwareなど複数メディアが内容を伝えたこのレポートでは、Huaweiの5Gスマートフォン用SoC「Kirin 9000S」に関する一部の詳細が明らかにされている。
分解レポートでは、Huaweiの新たなSoCが高性能コア4基、エネルギー効率に優れたコア4基、そしてGPU「Maleoon 910」で構成されていることが示唆されている。また、同SoCはArmの命令セットアーキテクチャ「Armv8a」を中心に据えて構築されている可能性が高いという。加えて、複数のメディアが、マザーボードのスペースを節約するため、CPU+GPUチップの上部にモデムチップを積層していると推察している。さらに、同SoCのCPUコアとGPUコアは、Huawei傘下の半導体部門であるHiSiliconが開発した前世代のSoCで採用されたArm製コアより、比較的低いクロック周波数で動作するという。
この特徴は、SMICの次世代7nm製造プロセス「N+2」で製造されたものである可能性が高い。同社は極紫外線(EUV)リソグラフィ装置へのアクセスを拒否されているため、旧来の深紫外線(DUV)リソグラフィ技術に基づき、第1世代のプロセス「N+1」を何とか構築した。N+1は、EUV技術に基づくTSMCの7nmプロセスにほぼ匹敵すると伝えられている。
特筆すべき点として、SMICのDUVリソグラフィスキャナーは、マルチパターニングを多用し、7nmノードや5nmノードでチップを製造できることだ。マルチパターニングは、製造の歩留まりやコストにも影響する高価な技術だ。つまり、SMICは生産量よりも機能性を優先したことになる。
SMICが中国のビットコイン採掘業者Bitman Technologies向けに製造した7nmチップは、生産量が少なかったため、事業への影響はさほど大きくなかったが、5Gスマホのようなマスマーケット向け製品の場合、歩留まりの課題は重要になる。最近Nikkei Asiaで公開された記事では、野村證券のアナリストであるDonnie Teng氏がSMICの7nmノードの歩留まりを「約50%」と推測している。記事の中で同氏は「7nmノードの歩留まりは非常に低いとみられ、いまだ改善の余地が多い」と述べている。
通信/クラウドコンピューティングの大手であるHuaweiが、最新のプロセスノードでの強力なチップの生産に多大な投資をしたいのは明らかだ。だが、同社は生産規模と収益性を長期的に維持していけるのだろうか? Huaweiとその半導体部門であるHiSiliconにとって、ここ数年の間に多くの変化があった。
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