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ステップダウン形DC/DCコンバーターの設計(3)たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(5)(1/4 ページ)

今回は前回説明しきれなかったチョークの要求特性について説明し、続いて今回の目標であるリップル電圧を図式解法で導けるかを検討します。

» 2024年01月29日 11時30分 公開

 前回は半導体の要求特性と定格の関係について説明しましたが、多くは経験則なので詳細は式では表せません。
 「このような条件で設計を進めたらうまくいく場合が多い」 といった趣旨ですから納得のいかない部分もあったかと思います。経験則とはそのようなものなのです。特にダイオードに関しては損失を表す適切な近似式が見当たらず、都度カタログや仕様書を参照しなければならなかったためにその納得度合いがより一層低くなったかと思います。このような場合にはうまくいった過去の事例を集めてグループ分けして、簡易早見表を作るのが良いと思います。
 今回は前回説明しきれなかったチョークの要求特性について説明し、続いて今回の目標であるリップル電圧を図式解法で導けるかを検討します。

チョークの要求特性

 既に何回も説明したように、チョークLに流れる電流ILは(IoーΔI/2)〜(Io+ΔI/2)まで変化します。ここでIoは出力DC電流、ΔIはチョークの電流リップルです。この様子からチョークに必要な制約条件を考えます。
 このΔIの電流振幅はインダクタンスの定義式(L×I=Φ)からも分かるようにコアの損失パラメーターΔB(∝ΔΦ)に直結します。したがって電気的仕様が満足できてもΔIを大きくするとチョークのコア損失が増大します。
このΔIは後述するように臨界負荷電流Io(MIN)の2倍ですからIo(MIN)も参考にして値を決めることになります。

飽和電流値I(sat)

 フェライトや磁性鋼板など強磁性体を用いたコアは磁気特性を発現する全ての原子、分子が使われる⾼磁束密度状態を超えると急激に磁気特性を失います。この現象を磁気飽和と呼び、特別な理由がなければ通常はこの飽和磁束密度Bm(sat)以下で使⽤しなければなりません。
 ただし実際には測定しにくい飽和磁束密度Bm(sat)よりも容易に測定できる飽和電流値I(sat)*1が主に用いられます。図1にその一例を示します。一般にチョークのようなギャップ付きコアの場合にはギャップの効果で磁気飽和は急激には起こらず、図に示すように徐々に飽和します。この様子はI(sat)の設定に影響します。

図1:電流で見た磁気飽和現象[クリックで拡大]
出典:FEL研究室 https://fellaboratory.blogspot.com/2016/10/2.html

 近年のDC/DCコンバーターの制御ICには短絡保護回路が設けられ、出力1パルスごとに電流が一定値を超えないように監視をしています。この過電流検出回路のバラツキは電流検出抵抗、基準電圧の偏差をそれぞれ±5%とすると検出レベルの総合変動*2は±10%を見込まなければなりません。
 したがってチョークに流れる可能性のある最大DC電流I(OCL)は最大負荷電流Io(Max)の1.2倍(=1.1/0.9)とします。ですからチョークLが耐えなければならないピーク電流値ILPはリップル電流の1/2が重畳した(I(OCL)+ΔI/2)になります。

 またコア自身は磁気飽和しても直ちに破壊はしませんが、周辺の半導体(M1、D1)の電流が増大しますので磁気飽和は避けなければなりません。
 磁気飽和をインダクタンス値の10%低下点で判断するか、20%低下点で判断するによってもI(sat)の判定値は異なりますが20%低下点で判断する場合はI(sat)点で既に磁気飽和が始まっていますのでチョークLのI(sat)の90%でILPと比較、判断してください。
 ですから温度特性を含めたチョークの最少飽和電流I(sat)は(Io(MAX)×1.2+ΔI/2)/0.9以上でなくてはなりません。
 磁気飽和を10%低下点で判断する場合は経験的には(Io(MAX)×1.2+ΔI/2)で判断します。
 このチョーク電流の振幅ΔIは1式から入力電圧Vが高いほど大きくなりますので上記の計算は最大入力時に行う必要があります。

1式

 V(OUT)は一定値ですから入力電圧Vが大きいほど電流振幅ΔIは大きくなります。

*1:Φ=L×I → I(sat)=(Bm(sat)×Ae)/L Ae:コア断面積、Bm(sat):飽和磁束密度
*2:インダクタンス値のバラツキはΔIの傾斜に影響しますがピーク電流に与える影響は2〜3%です。

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