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電磁気学入門(8)ロイヤープッシュプル自励発振トランスとはDC-DCコンバーター活用講座(51)(2/3 ページ)

» 2024年03月19日 11時00分 公開

ロイヤートランス設計に関する考察

 急激に飽和するコアがなければ、ロイヤープッシュプル自走発振はうまく動作しません。そういった意味では、フェライトコアが最適です。また、帰還巻き線は一次巻き線に近く結合させなくてはなりません。それによって、空気結合漏れインダクタンスは、コアがまだ飽和している間に、帰還巻き線電位の反転を行うことが可能になります。一次巻き線の巻き数は、適当な動作周波数fと以下の関係式で求められます。

<strong>式1:ロイヤー発振周波数関係式</strong> 式1:ロイヤー発振周波数関係式

 公称5V(トランジスタ端での測定値4.7V)で動作する1:1のDC-DCコンバーターで、正の飽和磁束密度BSが300mT、有効断面積Aeは5mm2、動作周波数が120kHzのMnZnフェライトロイダルコアの巻き数は、以下の式で求められます。

<strong>式2</strong> 式2

 一次巻き線はセンタータップされているので、巻き数は7+7ターンになります。帰還巻き線は、トランジスタのベースを適正にドライブするために約1Vを発生する必要があるので、2ターン(2ターン/7ターン×5V=1.4V)が適当です。

 1:1(5V入力、5V出力)のトランスの場合、出力の巻き線数は入力の巻き線数と同じですが、出力整流器の電圧降下0.7Vを許容する必要があります。センタータップの二次巻き線を使う場合は、8+8ターンが適当です。

 ロイヤートポロジーの主な優位点は、実装の簡単さに加えて巻き線数が少ない点で、コアは4象限全てを利用し、コアサイズに対する電力伝搬は、シングルエンドでは倍になります。

実用的ヒント

 2つのトランジスタTR1とTR2は、汎用のNPNバイポーラトランジスタを使います。特別なマッチングは必要なく、均整が取れていると起動の問題が起こるので、決してワンパッケージのデュアルトランジスタは使わないでいでください。


 コアが飽和する際に発生するICE電流スパイクは、非常に短時間(数マイクロ秒)ですが、継続的な周期的過負荷は、安全運用範囲(SOAR)の電力消費を超える原因になります。トランジスタのVCE定格は、少なくても最大入力電圧+オーバーシュート電圧の倍は必要です。通常入力電圧の3〜4倍の安全マージンを取ります。

 飽和スパイクによる高速な変動は、残余として出力に結合されます。通常、スパイクは短時間で大きなエネルギーをもっていないので、大きな問題になりませんが、無負荷状態では、出力コンデンサーが徐々に充電され、出力電圧が不自然に高くなります。単純な1:1コンバーターでは、出力電圧が無負荷時に最大25%上昇する可能性があります。これが問題になる場合には、このエネルギーを吸収するために出力に恒久的にダミー負荷(一般に全負荷定格の10%)を設置することが可能です。他の選択肢として、出力電圧をツェナーダイオード、もしくは高精度シャントレギュレーターでクランプして、無負荷時の出力電圧を許容値内に維持する方法があります。

 ロイヤー自励発振回路の不利点は、出力の短絡保護がないことです。障害状態おいて電流制限を行う、または発振を停止する帰還の仕組みがないので、出力の短絡によりスイッチングトランジスタは過負荷状態になり、瞬時に過度な発熱が生じ故障に至る原因になります。

 残念なことに、簡単にロイヤー回路に短絡保護を追加する方法はありませんが、出力短絡時でもトランジスタをSOARに維持する巻き線技術があります。

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