現在、市販されているDC/DCコンバーター用制御ICの過電流保護回路は出力パルスごとに過電流のレベルを検出し、出力パルスを制限しています。この方式をパルス・バイ・パルス(Pulse By Pulse)方式と言います。
一見、問題なく動作するように思えますが実際にDC/DCコンバーターの過電流保護回路を動作させると図2に示すように短絡モードの進行に従って制限しているはずの電流値が増加し、完全短絡時では設定値の数倍の短絡電流が流れ、ダイオードが異常に発熱するケースがあります。
この現象は回路の設計ミスなどではなく、制御ICの動作が理想的でないことに起因します。説明のために図3に制御ICの保護動作のシーケンスを簡単に示します。
これらは理想的な動作の場合ですが実際のICには過電流保護回路のセット、リセット期間、そして電流検出回路のノイズフィルターの遅れ時間が存在します。このため、図3に示すようにどうしても過電流保護回路が動作しない応答遅れ(不感)時間ができてしまいます。
この不感時間をton(MIN)とすると、この期間は電源Vからチョークへ電流が流れてしまいます。
この電流の増加分ΔI(MIN)は
で計算できます。
(V:電源電圧、VF:ダイオードの順方向効果電圧、L:チョークインダクタンス値)
一方、オフ期間中のチョークの電流減少分ΔI(MIN)は
ですから両者の電流がバランスするのは
の時です。この関係式からton(MIN)を求めると
となり、実際の最少オンパルスが1式のton(MIN)より長いと過電流が一定値に安定せず、図4に示すように1式が成立するまでVFは増加します。
このVFの増加はダイオードの順方向電流(IF)の増加の裏返しですから結果として出力電圧の低下に従って短絡電流が増加する図2の特性になります。
注目すべき点は定格設定電圧Voutが1式に現れないことです。ですからVFの低いSBD*を使う場合や同期整流回路ではより高速な回路応答が求められます。
例えば入力24±4V時、SBD(VF=0.5)を使用した場合、
100KHz動作→0.17μs
200kHz動作→89ns
1MHz動作→18ns
となり、応答遅れ時間を100nsとすれば200kHz近辺が限界周波数になってしまいます。さらに近年主流の同期整流方式ではVF=0.1V程度ですから条件的にはさらに厳しくなります。
*SBD:ショットキーバリアダイオード
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.