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ステップダウン形DC/DCコンバーターの設計(5)たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(7)(4/4 ページ)

» 2024年03月26日 11時00分 公開
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過電流保護回路の課題−2

 パルス・バイ・パルス方式の過電流保護回路の動作原理はピーク電流一定で制御します。この動作原理は制御電圧と電流波形を比較して制御するピーク電流制御形PWM方式と同じです。
 そしてこのピーク電流制御形PWM方式には図5に示す発振不安定問題があります。図5の条件は入力電圧Vin=7.0V、出力電圧5V設定で過電流保護動作によって3.3Vに垂下した時の各部の信号波形です。過電流保護回路のセット電圧V(set)はゲート駆動パルスの立ち上がりに同期して10μs間隔で出力されて過電流保護回路をセットします。
 過電流検知信号V(Reset)はドレイン電流が2Aに達すると出力されて過電流保護回路をリセットし、出力パルスを停止してスイッチング素子を過電流から保護します。

図5:過電流動作波形−1[クリックで拡大]
図6:過電流動作波形−2[クリックで拡大]

 回路動作としてはこのようにもくろみ通りに動作していますが実際のドレイン電流の波形は1周期ごとにふらついています。この現象をサブハーモニック現象と言います。
 このサブハーモニック現象はオン時間が一定周期でふらつくので一見すると制御系の問題のように思われますがこの動作には時定数を持つものは含まれてはおらず、発振を起こす要素は見当たりません。また電圧が垂下して時比率δが50%を下回ると図6に示すようにこの現象は発生しなくなります。

 この現象はピーク電流制御方式PWMの原理、原則的なものであり、外部定数の調整で左右できるものではありません。詳しいメカニズムは本シリーズの最後に説明しますが対策として

①過電流の判定値(しきい値)を時間とともに減少させるスロープ補償と呼ばれる補正を行います。
②チョークLのインダクタンスが小さいと①の必要な補正量が大きくなるので許容できる範囲でインダクタンスを大きくします。

 ただしこのスロープ補償(補正)を行うと過電流時の垂下特性が緩やかになるのでその分だけ完全短絡時の電流が若干増加することになります。
 このように単に過電流保護回路といってもいろいろな観点に基づいて回路が構成されていることが分ります。
 そして誤差増幅器の構成には過電流保護動作の項で過負荷解除時のオーバーシュートの回避について触れましたがそのような付帯動作も考慮に入れた構成が望ましいのは言うまでもありません。

 一方、同期整流回路に関連した課題として起動時のエネルギー回生問題、そしてFET(M1)のD-S間短絡やチョーク(L1)短絡などによる回生FETの破壊問題、など一口にDC/DCコンバーターと称しても変換部以外にも配慮しなければならない箇所は多々あります。

 今回はDC/DCコンバーターの電圧変換の説明から離れますが機器の安全に欠かせない過電流保護動作を始めとする周辺機能の課題について説明しました。
 ステップダウン型DC/DCコンバーターについては今回で終了し、次回からステップアップ型DC/DCコンバーターについて説明をしていきます。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


⇒【連載「たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計」バックナンバー】

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