今回はDC/DCコンバーターを設計する上で欠かせない「過電流保護回路」について説明します。
前回は図式解法とエネルギー保存則を用いてチョーク電流不連続の動作について説明し、軽負荷状態においては出力電圧が上昇することを説明しました。
この電圧上昇を抑制し出力電圧を安定化するために通常はオン時間tonを短縮して出力電圧を安定化します。ですが制御範囲には動作可能な最小値ton(MIN)があり、このton(MIN)を下回るとハンチング現象を起こすので効率を犠牲にして疑似負荷を付けるか、もしくは周波数制御による対策を行う必要があることも紹介しました。
なお、連載の主旨から外れるために前回は説明しませんでしたが近年多く用いられている同期整流方式では出力エネルギーを入力側へ回生(帰還)できるので軽負荷時の電圧上昇は発生しません。この作用は同期整流方式の利点の1つとして挙げられます。
今回はDC/DCコンバーターの基本設計とは直接的な関係はないですが、コンバーターを設計する上で欠かせない過電流保護回路について説明します。DC/DCコンバーターの設計にはこのような課題があることも覚えておいてください。
パワーICと呼ばれる1チップ形のDC/DCコンバーター用ICでは電流検出用の抵抗をIC内部に設けることは電力損失の関係で困難です。一般にこのようなICではMOSFETのRonが抵抗性であることを利用した検出方法か、あるいは次に説明する“Sens Mos”と呼ばれる方法で電流を検出します。
MOSFETは数万個以上の“セル”と呼ばれる微小素子の集合体です。このセルはどのセルをとっても同じ特性になるように作られています。従って十分なゲート電圧が与えられていてMOSFETが完全に飽和していれば一部のセルのソースに電流検出抵抗を挿入して0.2V程度の電圧降下を生じても分流特性は外乱に対して安定しています。このような構造のMOSFETをSens Mosと呼びます。
また抵抗の消費電力は分流比に従って減少するので電流検出抵抗をICに内蔵することも可能になります。
ただしソースに抵抗が挿入されるので電流帰還作用が発生して等価オン抵抗が増大するので分流比はセル比よりも小さくなります。その様子を図1に示します。
M1には基本形のMOSFETを接続しM2にはソースに20Ωの電流検出抵抗を挿入した1/1000サイズのセルを接続しました。
この条件では10A時に200mVの検出信号になるはずですが実際には図1(b)上段図に示すように180mVしか発生していません。確認のためM1のドレイン電流も表示しましたがID(M1)は図1(b)下段図に示すように確実に規定の電流が流れています。
なお、前述した「MOSFETのRonが抵抗性であることを利用した検出方法」はターンオン時の遷移特性を除去するための不感時間の影響で垂下特性は悪くなる傾向になります。ですからこの検出方法の場合はタイマー保護回路などと併用する場合がほとんどです。
MOSFETが外付けの場合でもSens Mosの手法は使えますが現在では市販されているMOSFETの品種が少なく選択の自由度が下がります。現在では外付けの電流検出抵抗と制御ICに内蔵した0.2V程度の検出感度を持つコンパレーターを使って過電流保護を行います。
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