ビル内の多種多様なデータ・ソースを統合する上で鍵になるのは、計測と接続に使用されているインフラです。従来、ビル内のセンサーや制御装置は、RS-485に対応するトランシーバーと、BACnetやModbus、LonWorksなどのプロトコルを組み合わせた有線のシリアル通信リンクを用いて接続されていました*6)。
RS-485は、スループットとセキュリティの面で制約を抱える旧来型のインタフェースです。例えば、RS-485の物理層で利用できるビル・オートメーション用のプロトコルの例としてはBACnet MS/TPが挙げられます。そのボー・レートは、最高でもわずか115.2kbpsです*10)。また、BACnetやModbusといった旧来型の通信プロトコルは、クローズドなネットワーク向けに設計されたものです。そのため、暗号化や認証の機能が組み込まれていません。そうしたプロトコルを採用した機器がITインフラ用のゲートウェイを介してインターネットに接続されると、サイバーセキュリティ上の大きな脅威に見舞われることになります。
ここで注目すべき新たな通信方式がシングルペアイーサネットです。特に10BASE-T1Lは、2019年11月にIEEE 802.3cgとして承認を得ていて、現在のビルでは10BASE-T1Lの導入が進んでいます*9)。10BASE-T1Lでは、RS-485で使用されていた有線のシリアル・リンク・ケーブルを再利用することが可能です。つまり、既存のケーブルを用いて、10BASE-T1Lに対応するイーサネットのデータを転送できるということです。既存のインフラにシングルペアイーサネットを適用すれば、以下のようなメリットが得られます。
従来は、デジタル化への第一歩として標準的な10Mbps/100Mbpsのイーサネットを使用するビル・コントローラーが導入されていました。それらのコントローラーは、BACnet/IPやModbus TCP/IPなどの旧来のプロトコルのイーサネットベースのバージョンを使用して通信を行います*6)。BACnet/IPを利用する機器は、BACnet MS/TPに対応する旧来の機器と同じデータオブジェクトを使用します。そのため、両方の種類の機器を使用するシステムを実装するのはさほど難しくはありませんでした。BACnet/IPやModbus TCP/IPといったIPベースのプロトコルは、最新のサイバーセキュリティ対策をサポートしています。
最近では、これらのプロトコルを使用してイーサネットへの接続を実現する設備が増加しつつあります。BACnetは、世界市場において約60%のシェアを獲得しています*7)。一方で、新規の設備の約80%はRS-485をベースとする有線のシリアル通信を採用しています。BSRIA(Building Services Research and Information Association)の推定によると、2019年の時点ではHVAC用のセンサーのうち5%はワイヤレス方式を採用していました。しかし、その種のセンサーは接続に関する信頼性が高いとはいえず、バッテリーを必要とするので使用できる場所には限りがありました*8)。
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