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ビルのデジタル化を加速する 「シングルペアイーサネット」の役割とは?ネット・ゼロ達成の鍵(3/5 ページ)

» 2024年05月20日 11時00分 公開

通信インフラの現代化

 ビル内の多種多様なデータ・ソースを統合する上で鍵になるのは、計測と接続に使用されているインフラです。従来、ビル内のセンサーや制御装置は、RS-485に対応するトランシーバーと、BACnetやModbus、LonWorksなどのプロトコルを組み合わせた有線のシリアル通信リンクを用いて接続されていました*6)

 RS-485は、スループットとセキュリティの面で制約を抱える旧来型のインタフェースです。例えば、RS-485の物理層で利用できるビル・オートメーション用のプロトコルの例としてはBACnet MS/TPが挙げられます。そのボー・レートは、最高でもわずか115.2kbpsです*10)。また、BACnetやModbusといった旧来型の通信プロトコルは、クローズドなネットワーク向けに設計されたものです。そのため、暗号化や認証の機能が組み込まれていません。そうしたプロトコルを採用した機器がITインフラ用のゲートウェイを介してインターネットに接続されると、サイバーセキュリティ上の大きな脅威に見舞われることになります。

 ここで注目すべき新たな通信方式がシングルペアイーサネットです。特に10BASE-T1Lは、2019年11月にIEEE 802.3cgとして承認を得ていて、現在のビルでは10BASE-T1Lの導入が進んでいます*9)。10BASE-T1Lでは、RS-485で使用されていた有線のシリアル・リンク・ケーブルを再利用することが可能です。つまり、既存のケーブルを用いて、10BASE-T1Lに対応するイーサネットのデータを転送できるということです。既存のインフラにシングルペアイーサネットを適用すれば、以下のようなメリットが得られます。

  • 各ノードは、最高10Mbpsというより広い帯域幅を利用できるようになります。
  • 各ノードはIP(Internet Protocol)アドレスによって指定可能なので、機器の管理方法を簡素化できます。
  • 伝送距離は最高1kmに達するので、RS-485に対応する既存のケーブルの最大長を十分にカバーできます。標準的な10Mbps/100Mbpsのイーサネットは100mまでしか対応できないので、伝送距離が大幅に改善されることになります*11)
  • IEEE 802.3cgのクラス15では、1本のツイスト・ペア・ケーブルにより、10BASE-T1L のデータと共に最大52Wの電力を伝送できると定められています。例えば、アナログ・デバイセズが提供するPoE(Power over Ethernet)コントローラー「LTC4296-1」を使用すれば、システムから多様なエンド・デバイスに対して電力を供給することができます。ただし、ケーブルの品質にはばらつきがあるので、電力伝送は新規導入の場合に限って利用することが推奨されます。

 従来は、デジタル化への第一歩として標準的な10Mbps/100Mbpsのイーサネットを使用するビル・コントローラーが導入されていました。それらのコントローラーは、BACnet/IPやModbus TCP/IPなどの旧来のプロトコルのイーサネットベースのバージョンを使用して通信を行います*6)。BACnet/IPを利用する機器は、BACnet MS/TPに対応する旧来の機器と同じデータオブジェクトを使用します。そのため、両方の種類の機器を使用するシステムを実装するのはさほど難しくはありませんでした。BACnet/IPやModbus TCP/IPといったIPベースのプロトコルは、最新のサイバーセキュリティ対策をサポートしています。

 最近では、これらのプロトコルを使用してイーサネットへの接続を実現する設備が増加しつつあります。BACnetは、世界市場において約60%のシェアを獲得しています*7)。一方で、新規の設備の約80%はRS-485をベースとする有線のシリアル通信を採用しています。BSRIA(Building Services Research and Information Association)の推定によると、2019年の時点ではHVAC用のセンサーのうち5%はワイヤレス方式を採用していました。しかし、その種のセンサーは接続に関する信頼性が高いとはいえず、バッテリーを必要とするので使用できる場所には限りがありました*8)

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