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ビルのデジタル化を加速する 「シングルペアイーサネット」の役割とは?ネット・ゼロ達成の鍵(2/5 ページ)

» 2024年05月20日 11時00分 公開

デジタル化によるエネルギー消費量の節減

 IEAのロードマップ「2030 Net Zero」*3)では、行動の変容やデジタル化といった手法によりエネルギー需要を減らし、CO2の排出量を約15%削減することを求めています。人々にエネルギーを節約する方法を教育し、行動の変容を促すのは効果的な手法です。ただ、IEAのケース・スタディー*4)では、「エネルギーの消費量を削減する上で最もその可能性を高められるのは、行動の変容を促すことではなく、オートメーションの導入を進めることである」と指摘しています。

 商業ビルのデジタル化を進めれば、事業者は業務の改善の度合いの計測や、運用を自動化するための基盤構築が可能になります。また、センサーで取得したデータと制御機能を利用することで、ビルの運用方法を最適化し、ビル内の人々に最良の環境を提供しつつ、エネルギーの消費量を削減できます。

 例えば、屋内の空気の質を改善する必要があった場合、ビルの運用方法についてより厳しい要件が課されることになります。ANSI/ASHRAE 62.1などの新たな規制では、健康と衛生について最善の状態を維持するために、ビル内により多くの外気を取り入れることを求めています*2)。このような換気に関する基準を順守しようとすると、エネルギー消費量の増加を避けられません。従って、ネット・ゼロを達成するためには、エネルギー需要を更に抑えなければならないということになります。最適な運用を実現するためには、ビル内の多くのHVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning:暖房、換気および空調)システムの連携を実現し、それぞれが同じ目的を持って動作するように調整する必要があります。

 ビル内では、HVACシステム、照明システム、防火システム、入退室管理システムなど、異なる種類のシステムが稼働します。それらの運用を集約するためには何が必要でしょうか。それは、適切なデータを取得し、制御できるようにすることです。AIと機械学習の処理を最適化し、人々の現在/将来の活動に基づいて、照明や冷暖房の理想的な使用方法を決定できます。また、空気の流れを適切に制御し、エネルギーの消費量のバランスをとりながら、屋内の空気の質を調整できるようになります。

 しかし、異なるベンダーが個別にデータベースを管理している場合、複数のシステムからデータを集約するのは容易ではありません。つまり、「データのサイロ化」が生じる可能性があります。ビル/HVACシステムにおけるデータの共有を実現するには、いくつかの課題を解消しなければなりません。そこで、IEAは、データ共有に関するガイドラインを策定するためのグループを設けています*5)。そのグループは、「課題を解決するための糸口は、多様なデータ・ソースを単一の画面(SPOG:Single Pane of Glass)に集約できるようにすることにある」と説明しています。それによって、傾向を見いだし、分析を適用して、新たなインサイト(洞察)を取得できるようにするということです(図1)。

 SPOGによるデータの可視化 (図1)SPOGによるデータの可視化。SPOGはシステムの集約によって実現されます。オートメーションやAI/機械学習を組み合わせることにより、エネルギー消費量の節減が可能になります[クリックで拡大]

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