温室効果ガスの排出量を実質ゼロに抑える「ネット・ゼロ」を世界レベルで達成するためには、通信用インフラのデジタル化が必要不可欠です。本稿では、シングルペアイーサネットを導入することにより、ビルのデジタル化を図る方法について説明します。
現在、多くの国/地域では、CO2の排出量を大幅に削減するための取り組みが進められています。温室効果ガスの排出量を実質的にゼロに抑える「ネット・ゼロ」の達成を世界レベルで目指しているということです。この目標を達成するためには、ビルディング(建築物)の運用に携わる業界も通信用のインフラを現代化(デジタル化)するという課題を解決する必要があります。
本稿では、10BASE-T1Lに代表されるシングルペアイーサネットを導入することにより、ビルのデジタル化を図る方法について説明します。RS-485のような旧来型の通信技術を使用しているビルを、シングルペアイーサネットによってアップグレードすることで、オートメーション化の促進、セキュリティレベルの向上、エネルギー消費量の削減などを実現し、持続可能性を高めることが可能になります。
気候変動の問題への対処や持続可能性の実現に向けて、90以上の国や地域がネット・ゼロの政策を積極的に展開しています。ネット・ゼロを実現するためには、人間の活動によるCO2の排出量を削減すると共に、その排出量を相殺するための取り組みが必要です。
ネット・ゼロを達成するためには、全ての産業においてCO2の排出量を削減しなければなりません。しかし、IEA(International Energy Association:国際エネルギー機関)は、「ビルディングの運用に携わる業界では、世界におけるCO2の排出量を2050年までにゼロに抑えるという目標を達成するための取り組みが進んでいない」と指摘しています。
ネット・ゼロの達成に向けては、2030年の時点で、2021年と比較して1m2当たりのエネルギー消費量を35%削減するという目標が設定されています*1)。それに対し、ビルで消費されるエネルギーの量は世界のエネルギー消費量の30%を占めています。IEAの指摘は、ビルディング業界がシステムのデジタル化やオートメーションの導入に向けた具体的な行動を起こさない限り、ネット・ゼロの目標は達成できないという懸念を示しています。
この課題をさらに複雑にしている要因は、効果的なオートメーションを導入するためには、リアルタイムのデータをより多く収集できるようにしなければならないというものです。現在のインフラの多くは、RS-485のような旧来型の通信技術をベースとしています。リアルタイムのデータをより多く収集できるようにするには、インフラのスループット容量と応答性を現在のレベルと比べて大きく改善しなければなりません。また、ビルが備える機器やシステムをネットワークに接続すると、それらがサイバー攻撃にさらされる可能性が生じます。そのため、旧来のネットワークが備える能力をはるかに超える高度なセキュリティ機能が必要になります。
本稿では、上記の課題を解決するための方法として、シングルペアイーサネットを紹介します。同技術を利用すれば、セキュアかつ費用対効果の高い方法でAI(人工知能)をベースとするオートメーション化を実現できます。また、この技術はビルの業界がネット・ゼロの目標を達成にも貢献します。シングルペアイーサネットを利用すれば、エッジまでの長距離にわたる接続を実現できます。新規にシステムを構築する場合に採用するだけでなく、既存のシステムに後付けの形で適用することも可能です。シングルペアイーサネットは、ITの領域とOT(Operational Technology)の間でシームレスなデータ転送を実現するための重要なツールとして機能します。
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