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AI時代のデータセンタートレンド インフラの統合と水冷システム組み込みエンジニアも知っておきたい(3/3 ページ)

» 2024年08月29日 16時00分 公開
[SupermicroEDN Japan]
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メリットの大きい水冷方式の導入が加速

 ラックあたりに供給される電力量と、処理できる発熱量には限界があります。データセンターの規模にもよりますが、データセンター内の空調装置を21〜23℃程度で設定した場合と、35℃以上の高い温度で設定した場合とを比較すると、高温度のほうが電気代を節約できます。年間で試算すると、数億円単位で違いが出るといわれています。高消費電力/高発熱のGPUサーバはこうしたデータセンターの高温運用化に反する形で統合する必要があるため、これまで大規模なスーパーコンピュータ専用の研究所などでの利用に限られていた水冷方式が見直されています。

 水冷方式にもいくつか種類があります。リアドア型水冷システムは、システムから排熱された空気をラックドアの水冷機能で冷却し、その冷やした空気をデータセンター内のコールドアイルに戻す方法で、L2A(Liquid to Air)と呼ばれています。さらに冷却効率を上がられるのがL2L(Liquid to Liquid)あるいはDLC(Direct Liquid Cooling)と呼ばれる方式です。CPUやGPUなどの高い発熱量を持つデバイスに内部に、冷却されたクーラント液が流れる水冷モジュールを直接被せることでデバイスを冷却します。その排熱によって熱せられたクーラント液を外部の冷却装置で冷やして循環させます。L2Lの場合は空冷用のシステム内の冷却ファンの数量と消費電力量を大幅に削減できるので、システム全体の消費電力が削減できます。さらに、大きな空冷用ヒートシンクが不要なことで、システム自体の搭載密度が向上するので、システムの設置面積効率が向上します。例えば、8GPU搭載の8Uサーバを水冷化することで、同じ8GPUを半分の高さの4U筐体に搭載できるので、設置面積当たりのシステム搭載数を倍にすることができます。

 水冷化は効率よくシステムを冷却する最善の方法の一つですが、その一方で、巨大なチラーや冷却装置を建物外部や敷地に設置し、冷却水用の配管を建物内に張り巡らせるため、初期投資は非常に高額になります。さらに、データセンターの運用面にもこれまでと異なる配慮が必要になります。それでも、水冷の導入に向けた業界内の協調的な取り組みが加速しているのは事実です。今後さらに高まるAI需要に応え、データセンター業界の成長を維持できる一貫性と信頼性のレベルを保証し、将来的にみたPUE値とTCO(Total Cost of Ownership)/TCE(Total Customer Experience)、CAPEX(設備投資)/OPEX(運用費)を最適化するためには、水冷が有効だからです。データセンター業界が水冷化に前向きであることを示す例として、Dell'Oro Groupの調査によると、「データセンターの熱管理市場のうち液冷が占める割合は、2021年のわずか5%から2026年までには19%に成長する」と予測されています。この移行は、進歩するテクノロジーに追従することを可能にするだけでなく、データセンター内で高まっているいくつかの懸念にも対応できるもので、データセンターのより持続可能で効率的な未来に向けた大きな一歩となることが予想されています。

AI環境の統合は組織を変革する力になる

 AIは自然発生する物ではありません。トレーニングに必要なデータを収集し、高度なデータ選別を行い、アルゴリズムを考え、大規模な計算機リソースを使って何時間もかけてやっと得られる結果を元に生成されるものです。それには、専用のハードウェア整備が最も重要であることは明確です。そのうえで、データセンターにおけるAI環境の統合は、単なる技術的なトレンドではなく、競争に勝ち抜くための組織の運営方法の根幹を再構築する変革的な力となります。増大するAI需要に対応し、その統合に伴う課題を克服することで、組織は効率性を高め、より深い洞察を得て、顧客に卓越した価値を提供することができます。この変革の旅路を歩むにあたり、組織は戦略的な先見性、協力的な努力、適応への意欲をもってAI需要に取り組まなければならないと考えます。

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