FETと言えども電圧と電流は瞬時には切り替わりません。クロスオーバー時間と呼ばれる、電圧、電流が共存するこの時間帯域ではスイッチング損失と呼ばれる損失Pswが発生します。
実際の電圧、電流の切り替わり波形は寄生容量や寄生インダクタンスによる共振波形になりますが簡易的に直線で電圧電流が切り替わるものすれば、この時の損失は次の式で表せます。
5式の各記号は次の通りです。
tr:ターンオン時間(遮断→飽和) tf:ターンオフ時間(飽和→遮断)
VD(r):ターンオン前の印加電圧 Id(r):ターンオン後のドレイン電流
VD(f):ターンオフ後の印加電圧 Id(f):ターンオフ前のドレイン電流
5式をさらに簡単にするためtr=tfとし、Vds、Idはターンオン、ターオフ前後で変わらないもの(矩形波状)とします。この場合、5式は次の6式のように簡素化できます。
FETの総合の損失PDはPon、Pc、Pswの各損失を合算したものになります。
FETの選定に当たってはこの損失3成分の具体的な値を比較して、ウェイトの高い箇所から対策をしていくことになります。
今回はコンバーター選定・設計の参考になればと思い今まで説明してきた3種類のコンバーターの各種計算式をまとめて比較しましたが、説明が長くなりましたので今回はここで区切りとさせていただきます。残るダイオードの要求値とMode IIと電流不連続モードについては次回へ繰り越しとさせていただきます。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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