結局TriCore 2はそのままの形で市場に出る事は無かったし、TriCore 3の計画もどこかに消えたと考えて良いだろう。ただそこで培われた技術がむしろTriCoreにフィードバックされたというべきか。TriCore 1ベースの製品はAUDO(AUtomotive unifieD processO)というシリーズ名で商品化され、名前の通り自動車向けMCUとして広く販売された。その後AUDO MAX/AUDO NGと名称が変わった後、2012年からは「AURIX」シリーズに生まれ変わった。このAURIXシリーズの最初のコアがTriCore V1.6であり、この世代から本格的にマルチコア対応になった。また機能安全に向けて仮想化機能が強化されるとか、DSP以外のコアの性能向上も図られている。
実のところこのV1.6からは、かつてTriCore 2/3で予定されていた機能を盛り込んだような構図になっており、その最新のものがV1.8としてAURIX TC4xxシリーズに搭載されている。特にV1.8ではFPUが従来のSingle PrecisionのみからDouble Precision対応に代わるといった強化もなされている。ただその一方で、図6でちょっと触れられていた64bitアドレスのサポートは、いまだ実現されていない。自動車向けであれば32bitで十分(先進運転支援システム[ADAS]とかAutonomous Driving向けはともかく、AURIXがターゲットとしているBody ECU向けには64bitは要らない)という判断なのではないかと思われる。
2022年1月の時点でTriCore搭載チップは合計で8億4500万個出荷され、うちAURIXシリーズが3億2000万個を占めていた。2022年末には出荷個数は10億個を超えており、自動車業界に限って言えばメジャーなアーキテクチャの一つになった。ただ自動車業界以外への採用は(Infineonも時々いろいろやっていたものの)成功しておらず、その意味ではマイナーアーキテクチャと評されても仕方ない部分がある。結果的に言えばメジャーニッチを狙って成功したアーキテクチャ、と言えるだろう。
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