大学では教わらない話をしよう。仕事を始めて最初の週、しゃれたポリエステルのズボンと革底の靴を履いていた。その服装のまま、顧客から返送されてきたJFETオペアンプを取り上げ、テストソケットに差し込んだ。すると、オペアンプは壊れてしまった。落胆しつつも、気を取り直して2つ目をテストソケットに差し込んだ。しかし、2つ目のオペアンプも動かなかった。火花は見えなかったが、2つのアンプは、私がソケットに差し込む前にすでに破壊していたのである。
ビニール製の床を歩くだけで、指先には数1000Vもの静電気が発生している。天気のよいアリゾナ州は20%の相対湿度で、平均12kVもの静電気が簡単に発生する(図1)。
MOSデバイスに最もよくあるESD(electrostatic discharge:静電気放電)破壊は、酸化膜のパンチスルーである。これは、ゲート酸化膜の誘電破壊電圧以上の過電圧をチップに加えると生じる。その結果、過熱状態となり、最後にはショートしてしまう。
接合部とメタライゼーションの焼損は、二次故障の原因となる。接合部の焼損は、大きな逆リーク電流を引き起こすか、完全にショートさせてしまう。一方、メタライゼーションの焼損は局所的な溶融を起こし、最後にはショートを起こす。ESD破壊により、パラメータの劣化が生じる場合も存在する。その場合、症状は表面的には表れない。
静電気の最大の要因は、人間である。人は衣服に静電気を帯び、日常動作の中で静電気に接触する。ICメーカーは2kV(人体モデル)のESDイベントに耐えられるオンチップ保護デバイスを提供し、人間による静電気に対処している。身の回りの静電気を防ぐ予防策を講じるのも有効である。例えば、接地リストストラップ、静電気を消散させるテーブルトップ、導電性のヒールストラップ、接地床マットなどは効果的である。作業場での、ESDに対する意識や教育で、静電気の影響を受けやすいデバイスを破壊するリスクを減らせる。
プリント基板上の非保護のチップもまた、静電気の影響を受けやすい。コントローラのI/Oポートや、RS-485ソケット、Ethernetレシーバ、USBポートなどのホットスワップインターフェースは、破損の恐れが特に大きい。携帯用デバイスは、次々に機能が追加され、ESDやEFT(electrical-fast-transient:電気的高速過渡現象)にさらされる機会がますます増えている。EFTは、I/Oコネクタ、またはデータケーブルの間の寄生容量やインダクタンスが原因で生じる。多くのシステムでは電力線をデータ線で覆うと、データ線に誘導性開閉サージが生じる。この状態における2つの接続されていない端子間の潜在的な電圧差は、ESDまたはEFTが生じることを意味している。
プリント基板レベルで予防措置を取りながら設計することが必要だ。基板上の配線において、接地面や、ループの削減、アンテナの除去など、レイアウト時の注意を守ることが優先課題である。過渡現象を抑制するデバイスを使用するのもよい予防策である。このようなデバイスは、サージ電圧を安全なレベルに抑えることができ、電圧の急激な変化(dV/dt)に対応する上、プリント基板の占有面積も狭い。市場にある最も効果的な過渡現象抑制デバイスは、TVS(transient-voltages uppression:過渡電圧抑制)ダイオードである。TVSダイオードは静電容量が低く、応答時間がサブナノ秒で、制限電圧が低い。30kVのESDに対する耐久性能(IEC6000-4-2 ESD規格準拠)を持つ。TVSダイオードは、基板の入力位置、または基板端に配置するのが最適である。
ESD対策は常に必要だろうか。答えはもちろん、イエスだ。ESDやEFT対策を怠ると、見えない火花によって破壊したデバイスやプリント基板を評価することになりかねない。
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は、「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著者である。ご意見は次のメールアドレスまで。bonnie.baker@microchip.com
※1…EMC, The Art of Compatibility, Microchip Technology, www.microchip.com.
※2…“Protecting USB Ports from ESD Damage,”Semtech, Application Note SI96-18, www.semtech.com.
※3…“ESD Protection Program,”Linear technology,
www.linear.com/
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