設計者らがASICよりもFPGAを選択する理由はいくつかある。まずFPGAは、再プログラムおよびフィールドでのアップグレードが可能で、ASICよりも設計期間が短い(図1)。FPGAはシステム全体としてのコストが高く生産数量の少ない用途向けに、最適な価格で機能を提供することができる。また、マスクコストが不要で、DFM(design for manufacturing)ツールを購入する必要がない。
Singh氏のグループがFPGAを使用する主な理由は2つあるという。1つは、多くの機能をFPGAに集積することで、プリント配線板から多くの部品を取り除くことができるため、性能を高めプリント配線板の面積を縮小することが可能となること。もう1つは、量産個数によっては、ASICでは設計やマスク、ツールなどのコスト、さらには開発上のさまざまなリスクに見合わない場合があるということである。この単純な理由こそが、FPGAを使う最大の動機となる。Singh氏は「FPGAは多くの案件において、性能や集積度に対する要件を満たすことができるようになってきた。中程度の回路規模と性能のチップを設計する必要に迫られたら、『90nm/65nmを使ったASICの開発に200万〜300万米ドルを費やすのか、それとも同等の成果が得られる90nm/65nmのFPGAを利用したほうがよいのか』と自問自答してみるとよい」と述べる。
Singh氏の設計グループは、新しいアーキテクチャを開発するとき、以前に設計した回路ブロックをあまり再利用しない場合には、ASICよりもFPGAを利用するという。その理由は、FPGAは再プログラムが可能であるため、新しいアーキテクチャを試してみて変更が必要ならば、単に再プログラムするだけでよいからである。
Singh氏の設計グループと同様に、Rozario氏の設計グループも、ASICよりFPGAをよく利用するが、その主な理由は開発コストである。Rozario氏は、「新興企業は開発費用の制約が厳しい場合、まずはFPGAを使うことを検討する。なぜならASICに比べて開発コストを軽減することができ、マスクの製作費用が不要だからだ」と述べる。
Rozario氏が勤める会社は、次世代製品を開発する際にこれまでソフトウエアで実現していた機能の多くを1つのFPGA上にハードウエアで実装することにより、同社製品に使われているソフトウエア機能の一部を統合し、高速化したいと考えていた。しかし、「この開発を始めたときには、どの機能をハードウエア化し、どの機能を高速化する必要があるのかがよく分かっていなかった」とRozario氏は述べる。そのような状況でFPGAを使おうとした理由は、「FPGAは、開発を進める途中でも設計変更が行えるという長所を備えている」(同氏)からだという。
ASICからFPGAに移行すると決めることは簡単だが、Rozario氏もSingh氏も「FPGAによる設計を理解するには少し学習が必要だ」と述べる。FPGAを使うと決めた後は、適切なFPGAを選択することが大きな課題となる。
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