冒頭で紹介したように、フォースセンサはハードウェア部分を担当した日本写真印刷とソフトウェア部分を担当したモルフォが企画段階から協力・開発するというビジネスモデルを採用している。「ユーザーにとって簡単な方式を作りたかった」と語る両社だが、今回このような開発工程を取ったことで、通常ならば対応に大幅な時間がかかるようなハード面の変更にも柔軟かつ迅速に対応でき、互いの課題点も早期にフィードバックできるというメリットがあったという。
具体的には、静電容量方式でフォースセンサを使用したときに、想定していたよりも最初のタッチが軽く、Z軸を強めに設定しないといけないケースがあったが、その課題は初期段階でソフトを作っていた際に分かり、すぐにセンサの中の構造を作り直すことができた。
ソフトウェア面での工夫
iPhoneで代表されるマルチタッチ操作は、もともとZ軸がないデバイスでのアクション。フォースセンサはZ軸が感知できたことで、まったく違うアクションができる。
タッチパネル操作では“直感的”という言葉がよく使われるが、iPhoneの操作にしても、実際には指の動かし方など新しく覚えなければならないことが結構多い。ソフトウェアを担当したモルフォは、グッと押すか、軽く押すかでページスクロールのスピードを変えるという操作を、日常生活で直感かどうかを考えていくうちに、押し圧によってページをめくる動作など、Z軸が感知できることで、分かる立体感(どれくらいの情報量があるのか、見たい情報はどこにあるのか)を表現した。こうして、片手で操作できる、という携帯本来のスタイルを維持した、フォースセンサの機能が生まれた。
ハードウェア面での工夫
iPhoneのタッチ機能が多くの人に受け入れられたのは、デバイスとソフトのマッチングが最高だからだと両社はいう。微妙なスピード変化や動作など、ソフトウェアの作り込みで異常なこだわりが随所で見られるが、それは初期段階からソフトとハードを融合させなければできないことだ。
例えばハードウェアのみを作り、その後ソフトウェアを組み合わせという方式を取るとすると、(ハードを)提供したメーカーによっては、全然違うものに見えることもあるという。Z軸の感知というフォースセンサのメリットを最大限に生かすには、それに合致するソフトウェアを初期段階から共同で開発できるパートナー企業が必要だった。両社は以前より付き合いがあったため、その辺のコミュニケーションもスムーズに進んだ。実際、今回の開発試案は今年の3〜4月に出たが、その後2〜3カ月でプロトタイプを展示会に出展している。
気になるコスト
タッチパネルに限らず、携帯電話の部材で常に課題に掲げられる「コスト」だが、フォースセンサに必要なのはセンサ部分のフィルム1枚を加えるだけの材料費とプロセスの費用のみで、1枚のフィルムの片側に電極などを印刷しただけの単純な構成となっている。従来のタッチパネルのプロセスで作ることができ、特別なコストアップなどはない。
日本写真印刷は印刷会社なので、プラスチックの成形と合わせた加飾技術を持っている。同社ではその技術を生かし、タッチパネルの表面に形状を付けるなど、他社との差別化を図りたいとしている。モルフォは、さらにタッチパネルのアプリケーションアイデアを2、3用意し、機能を加えていく考えだ。
ここからはフォースセンサの仕組みを紹介する。
フォースセンサは、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の印刷工程で製造された2枚のプラスチック基板の間に、特殊なインク「フォースセンサーインク」を挟む形で構成されている。フォースセンサーインクは圧力が掛かると電気抵抗を起こす仕組みとなっており、圧力がない状態では絶縁している。
フォースセンサは押し圧の強度に応じて段階を感知し、その段階に応じて操作を変更している。現在は1点のみで圧力を検知しているが、将来的には面で圧力を検知ことも検討しており、ペン入力時の筆圧なども再現したいとしている。
今回使用したフォースセンサーインクは、印刷できるインク材料であることから、日本写真印刷の基本としている印刷工程で成形できた。今後はデザイン面での拡張性も含めて、さらなる改良が期待される。
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