試験担当者は、主として信号発生器と信号解析器を使用してRF性能の試験を行う。ただし、RFシグナリングを組み合わせた複合試験も重要だ。複合試験では、すべてのシグナリングレイヤーにおいて、ユーザー端末の送信器/受信器を組み合わせてテストする。試験は、干渉信号も存在する実環境下で、機器を長時間、実際に使用している状態でのシグナリング手順やシナリオにかなり近づけて、送信器と受信器で別々に行われる。
送信器の試験にはさまざまな測定方法が適用される。まず、電力測定やEVM(Error Vector Magnitude)測定など、ほかの無線通信方式で実績のある方法を使用してLTEの信号を試験する。次に、LTEやW-CDMAのプロファイルに基づいた電力制御など、広範囲の手順を検証する。測定の多くは、よく知られた手順に似ているかもしれない。しかし、LTEではより複雑なものとなる。その一例がスペクトラム測定だ。LTEとW-CDMAの周波数帯は隣接する可能性があるため、ユーザー端末に対して特別な要求が設けられている。W-CDMA/LTE間の干渉を防ぐために、隣接する周波数帯の送信電力は、LTEおよびW-CDMAの最大値を超えてはならないというものだ。隣接チャンネルの電力については、ACLR(隣接チャンネル漏洩電力比)試験で確認できる(図3)。
リソースブロックの割り当てをTTIベースで行えるOFDMAを採用したことで、試験仕様は大きく変わった。測定装置は上りリンクと下りリンクに必要な割り当て表とスケジューリングパラメータを自由に設定し、その表やパラメータをユーザー端末に送信する。一方、試験担当者は、リソースブロックの適切な割り当てとユーザー端末の上りリンクの送信特性を確認する(図4)。
複数のユーザー端末が帯域を同時に使用できることから、試験担当者は帯域内放射を測定し、ユーザー端末が上りリンクの割り当てと送信電力の要求仕様を満たしているか否かを判断する必要がある。この方法によって、ユーザー端末が、割り当てられたリソースブロック以外の上りリンク信号に干渉を与えていないことを確認できる。測定装置が制限値を自由に設定し、個別に確認することができれば、試験は大幅に簡略化される(図5)。
割り当ての選択肢が広がったので、当然試験結果も多くなる。試験結果は、時間および周波数軸内で割り当てられたリソースブロックの位置と大きさに大きく依存する。そのため、開発者は状況に応じて結果を解釈しなければならない。加えて、ある割り当てのみに影響を及ぼすRF障害も存在する。
複数のサブキャリアにまたがって送信する場合、サブキャリア間で送信電力が異なることがある。目的のサブキャリアの送信電力は、スペクトルの平坦度をテストすることで調べられる。これにより、潜在的な変動を高い精度で確認することができる。
受信器の試験では、MACレイヤーにACK/NACKベースの部分的BLER(Block Error Rate)測定を適用する。この方法は、上りリンクの信号を解析するもので、HSPAの試験でもよく知られている。LTEはMIMOを採用しているため、下りリンク信号にさまざまなフェージングプロファイルを適用するシナリオに焦点が当てられる。また、動的なフェージングプロファイルではなく、静的なフェージングプロファイルをシミュレートする静的チャンネルモデルを使用すれば、開発時間とコストの削減に役立つ。静的チャンネルモデルを使用すれば、BLER測定によって受信器の動作を解析できる。HSPAの場合も、下りリンクの信号はフェージングチャンネルとAWGN(加法性白色ガウス雑音)チャンネルによって測定する。LTEでは、帯域の内外にある別の無線技術の干渉信号も加わるため、幅広いブロッキング試験と隣接チャンネル試験が要求される。
HSPAでおなじみのUL CQI(上りチャンネル品質情報)試験は、シグナリングパラメータを調整する重要な手段である。受信器の信号品質はユーザー端末がCQIを介して報告するのだが、その信号品質を最適化するためにも肝心な試験であるということだ。LTEでは、Rank 1またはRank 2のCQI、PMI(Precoding Matrix Indicator)、RI(Rank Indicator)など、複数の値が信号品質に影響を与える。測定中の機器が接続に用いているパラメータを動的に変更すれば、試験時間を短縮できる。
ユーザー端末の試験には、上りリンクに割り当てられたリソースブロックとともに送信器のRF性能を確認できるような測定方法が要求される。例えば、送信器の測定用データが、図6のようにひと目で確認できるように表示されれば理想的である。
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