「開発サイクルの短い民生用機器向けSoCからは撤退する」方針を表明していたルネサスが、民生用機器向けSoCプラットフォーム「R-Home」の第1弾製品「R-Home S1」を発表した。ハイブリッド型セットトップボックス(STB)や家庭用マルチメディアサーバを主な用途としている。
ルネサス エレクトロニクスは2011年3月、セットトップボックス(STB)用SoC(System on Chip)「R-Home S1」を発表した。同社が2010年9月に発表した民生用機器向けSoCプラットフォーム「R-Home」の第1弾製品となる。ARMのアプリケーション処理用プロセッサコア「Cortex-A9」をデュアルコア構成で搭載する他、Imagination Technologiesの3Dグラフィックスプロセッサ「PowerVR SGX531」や、入力映像を高品位(HD)映像に変換するHDトランスコーダなどを集積し、従来品よりも高性能なことを特徴とする。主な用途は、ケーブルテレビや衛星放送の受信と、インターネット経由のコンテンツ配信の両方に対応したハイブリッド型STBや、家庭用マルチメディアサーバなどである。2012年5月からサンプル出荷を開始する。サンプル価格は3000円。量産開始は2012年12月の予定で、2013年6月には100万個/月まで量産規模を拡大する計画である。
ルネサスは2010年9月に、モバイル機器向けの「R-Mobile」、車載情報機器向けの「R-Car」、そして民生用機器向けのR-Homeという3つのSoCプラットフォームを発表していた(関連記事1)。R-MobileとR-Carは、2011年2月に第1弾製品を発表していたものの、R-Homeについて情報はなかった。その後、同社が「開発サイクルの短い民生用機器向けSoCからは撤退する」という方針を表明していたこともあり(関連記事2)、R-Homeの動向に注目が集まっていた。今回のR-Home S1の発表により、3つのSoCプラットフォーム全てに、具体的な製品がラインアップされたことになる。
なお、同社は、デジタルテレビ放送の受信に使用されるSTB用SoCを戦略製品の一つに位置付けており、今後も積極的に事業を推進する方針である。
R-Home S1は、NECエレクトロニクスが展開していたSoCプラットフォーム「EMMA」を引き継ぐ形で開発が進められた。ただしプロセッサコアは、MIPS Technologiesの「MIPS32 4KE」から、デュアルコア構成のCortex-A9に変更されている。また、リアルタイム処理を担当するサブプロセッサとしてルネサスの独自コア「SH4AL」を搭載している。最大動作周波数は、Cortex-A9が1GHz(処理性能は5000DMIPS)、SH4ALが432MHz(処理性能は900DMIPS)。Cortex-A9の最大処理性能である5000DMIPSは、EMMAの従来品の8倍に達するという。さらに、スタンバイ時の処理を担当するARMのプロセッサコア「ARM7」も搭載した。
加えて、1280×720画素、30フレーム/秒までのHD映像に対応したMPEGトランスコーダを搭載した。これを利用すれば、入力映像をMPEG2、MPEG4、H.263といったさまざまなフォーマットに変換できるので、スマートフォンのテレビ電話機能やモバイル機器のコンテンツ配信機能と、R-Home S1を搭載するSTBの間での連携を容易に実現できる。この他、3DグラフィックスプロセッサのPowerVR SGX531を用いることで、高精細の3D映像の表示機能や、直観的に操作できる3D GUI(Graphical User Interface)を搭載したSTBの開発が可能だという。
有料放送の不正受信防止機能については、世界の主要なセキュリティベンダーの最新仕様を使って実装できるようにしている。また、周辺機能として、イーサネットコントローラ、PCI Expressインタフェース、SDIOインタフェースなどを搭載しており、高速インターネットへの対応や、外付けデバイスを使った無線LANによる通信接続なども可能である。
パッケージは、外形寸法が27mm角の544端子PBGAである。40nmプロセスの採用と端子数の最適化によって業界最小クラスのパッケージサイズを実現した。STBに必要になる部品コストと消費電力の低減についても、「競合他社を凌駕している」(ルネサス)という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.