アナログ・デバイセズの「ADSP-BF60x」は、画像認識アルゴリズムを高速に処理できるアクセラレータを搭載している。1GHz相当の処理能力を持つBlackfinプロセッサと組み合わせれば、最大5つまでの画像認識アルゴリズムを同時に処理できる。
アナログ・デバイセズ(ADI)は2012年3月29日、東京都内で会見を開き、RISCマイコンとDSPの機能を併せ持つプロセッサシリーズ「Blackfin」の新製品「ADSP-BF60x(以下、BF60x)」を発表した。500MHzで動作する2個のプロセッサコアで構成される「1GHz Blackfinプロセッサ」を搭載する。Blackfinには、高い処理性能を特徴とする「高性能」、多くの機能を集積した「高集積」、コストパフォーマンスに重点を置いた「低コスト」という3つの製品群があるが、BF60xは高性能の製品群に属している。既にサンプル出荷を開始している。1000個購入時の単価は15米ドル。
BF60xの最大の特徴は、画像認識アルゴリズムを高速に処理できるアクセラレータ「PVP(Pipelined Vision Processor)」を搭載したことである。PVPには、コンボリューションやスケーラ、算術演算など、画像認識アルゴリズムで使用頻度の高い12個の信号処理ブロックが組み込まれている。これらの信号処理ブロックは、カメラとの接続に使用するePPI(Enhanced Parallel Peripheral Interfaces)から直接入力されるカメラパイプラインと、外付けメモリに格納した画像データを入力するメモリパイプラインに割り当てることができる。
PVPの他にも、αブレンドなどの画像変換を行う「PIXC(Pixel Compositor)」や、PVPやPXICへの画像データのやり取りを管理する「Pixel Crossbar」なども搭載している。これらの機能と1GHz Blackfinプロセッサを組み合わせることで、最大5つまでの画像認識アルゴリズムを同時に処理できるという。
同社のインダストリー&インスツルメンテーション・セグメントでシニア・マネージャーを務める藤川博之氏は、「画像認識回路を構築する場合、極めて高い処理性能を持つプロセッサを使ってアルゴリズムをソフトウェア処理するか、アルゴリズムの一部をハードウェア化したFPGAとプロセッサを組み合わせるのが一般的だった。BF60xは、これらの中間に位置している。高い処理性能を持つ1GHz Blackfinプロセッサと、画像認識アルゴリズムのうち使用頻度の高い信号処理ブロックをハードウェア化したPVPを集積しているので、従来の手法よりも低コストで、高い処理性能を持つ画像認識機能を実現できるようになる」と語る。
ADIがBF60xの主な用途として挙げるのが、車載カメラの画像から歩行者や他の車両、交通標識、車線などを検知する先進運転支援システムである。例えば、前方車両との衝突回避、歩行者の検知、対向車の有無に合わせたヘッドライトのロー/ハイの自動制御、交通標識の認識、車線の維持といった5つの機能を実現できるという。この他、製品出荷管理システムなどの1D/2Dバーコードのデコード処理や、監視カメラなどに最適だとしている。
会見では、BF60xを使った画像認識のデモンストレーションも行った。デモの内容は、720×480画素の画像を出力するビデオカメラを使って3個のサイコロの出目を撮影し、この画像をBF60xで画像認識してからサイコロの出目の合計を出力するというものである。画像の取得からサイコロの出目を出力するまでのレイテンシは4〜5サイクルで済む。また、このデモにおけるPVPの処理能力は、動作周波数が1.9GHzのBlackfinプロセッサに相当しているという。
PVP以外でも、1GHz Blackfinプロセッサと周辺機能を接続する内部バスの改良や、L1キャッシュとL2キャッシュを含めて最大552KバイトのSRAMの内蔵によって、処理性能を高めている。
BF60xは、PVPを搭載する「BF-609」と「BF-608」、PVPを搭載しない「BF-607」と「BF-606」の4品種がある。BF-609は画素数が1280×960の高品位画像に、BF-608は画素数が640×480のVGA画像に対応している。L2キャッシュの容量は、BF-606のみ128Kバイトで、他の3品種は256Kバイトとなっている。評価ボード「Blackfin 60x EZ-KIT」や、画像認識アルゴリズムの開発に役立つソフトウェアモジュールやライブラリが入った「Blackfin専用イメージ・プロセッシング・ツールボックス」も提供する。
また、Blackfin向けの統合開発環境として、従来の「VisualDSP++」に替えて、Eclipseベースの「CrossCore Embedded Studio(CCES)」を導入することも発表した。CCESは、VisualDSP++で提供していた、コンパイラやアセンブラ、リンカーに加えて、Micriumの組み込みOS「μC/OS-III」や同OS向けのデバッグツール、MicriumのUSBやファイルシステムなどのミドルウェアもバンドルしている。
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