それでは具体的な修理の事例で説明しよう。2002年に製造されたモータードライバの修理依頼を受けたので、不具合現象と現品の電源部の回路構成を詳細に確認した。図1に、修理依頼品の電源部と周辺の概略の回路図を示す。
この製品は、直流24Vの電源入力を受けて、内部で12Vと5Vの直流電源を生成していた。12Vと5Vそれぞれの電圧とリップルを観測してみたが、いずれも良好であり問題は見つからなかった。次に、電源部に実装されていた電解コンデンサを図2のように写真に撮って、部品を取り扱っている販売代理店経由で型名を確認した。
すると代理店から不可解な返事がきた。それは、「この電解コンデンサは特定のユーザー向けに供給する特別仕様品であり、型名は開示できない」という回答だ。電解コンデンサが特定ユーザー向け!? どう考えてもこの回答はおかしい。そう感じたので別のルートで型名を探り、ようやくそれが判明した。
この電解コンデンサは既に製造中止になっており、型名からさらに部品の詳細を確認したら、予想通り第四級アンモニウム塩の電解液を使用した品種であることが分かった。電解コンデンサのメーカーとしては、これは過去に葬り去った品種であり、どうやらあまり触れてほしくないものらしい。しかし、筆者が修理依頼を受けた製品には、同じシリーズの電解コンデンサが数多く使用されている。追求しないわけにはいかない。
一方、修理の依頼元からはドライバメーカーの不具合調査報告書を入手できた。その報告書には「入力電圧を監視する回路の電解コンデンサがドライアップ*1)したため、この回路が誤動作して動作停止に至った」とあった。図1中、赤色の点線で囲った部分が、その電圧監視回路である。24Vの入力電圧を2個の抵抗で分圧し、Texas Instrumentsの電圧監視IC「TL7700」を使って監視する仕組みだ。ノイズによる誤動作を防ぐため、抵抗分圧器(R2、R3)と電圧監視ICの間に10kΩの抵抗(R4)と2.2μFの電解コンデンサ(C8)からなる遅延回路を挿入している。
しかし、この監視回路は入力電圧の低下を検知するしきい値が約14Vになるように設計されていた。入力電圧が正常値の24Vから10Vと大幅に下がらない限り、電圧低下のアラーム信号が発生しない仕組みである。従って、仮にこの電解コンデンサがドライアップしてオープン状態になっても、入力電圧が正常値にもかかわらず低下したと検知してしまう誤動作は起きにくいはず。調査報告書にあったドライアップして容量が下がることが原因でなく、何か別の原因が隠れているようだ。
その後、不良動作の現象、回路、部品を詳しく調査し、原因はほぼ特定できた。やはり電圧監視回路の電解コンデンサである。しかし、問題はドライアップではない。第四級アンモニウム塩の電解液を使った品種が使われていたのである。
この電解コンデンサは小容量(小径)で表面実装タイプのため、たとえ電解液が漏れ出しても大量ではない。しかし電解コンデンサのリードの端子ピッチが狭いと、漏れた電解液が端子間を短絡し、端子間を低い抵抗値で導通させてしまう危険性がある。
この電圧監視回路では、電圧監視ICの高インピーダンス入力の電圧検出端子に電解コンデンサが接続されている。そのため、電解コンデンサの端子間が低抵抗で導通すると、電圧監視IC自体の入力抵抗が小さくなってしまう可能性が非常に高い。そうなれば、たとえ入力電圧が正常値でも、検出端子にかかる電圧は大幅に低下してしまう。
つまり、電圧監視回路の電解コンデンサが液漏れし、監視ICの検出端子(図中のSense)とグラウンド端子(GND)間の抵抗値が低下したことで、24Vの入力電圧が正常でも監視回路が誤動作し、モータードライバが停止したと推定される。
ここでドライバメーカーの調査報告書を振り返ると、「電圧監視回路の電解コンデンサがドライアップして容量が抜けたため、誤動作した」という回答は、微妙に事実を伝えていないと感じられる。これは、メーカーとして外部に報告できるギリギリの内容であろう。もし本当のこと――「電解コンデンサの液漏れで回路が短絡し、誤動作した」という報告を外に出せば、顧客に不安を与え、電源部の全数交換を要求されたはずだ。“ウソはつかないが、本当のことは言わない”。そんな報告の典型的な例だと思う。
今回の事例は氷山の一角だ。第四級アンモニウム塩の電解液を使用した電解コンデンサは、今もなお多くの古い装置で使われている。そうした装置の電源や回路で動作不良が生じた場合は、その基板に実装されている電解コンデンサを調べてみると、解決が早いかもしれない。
今後も本連載では、筆者が製品の修理に取り組む中で見つけた設計・製造不良の内容や原因を報告し、皆さんが同じ落とし穴にはまらないように解説するつもりである。
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