オペアンプICに個別トランジスタを“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充する定番回路集。今回は、オペアンプ単体の駆動能力を超える、大きな出力電流を負荷に供給する方法を紹介します。インピーダンスの低い安価なスピーカーを駆動するといったケースに活用できます。
実現できる機能 | オペアンプ単体の駆動能力を超える、大きな出力電流を負荷に供給できる。 |
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こんな場面で有効 | オペアンプの品種を変えずに駆動能力を高めたい、汎用オペアンプのラインアップでは対応できない高電流で負荷を駆動したいとき。例えば、インピーダンスの低い安価なスピーカーを駆動するといったケースに使える。 |
オペアンプICは、品種にもよりますが出力電流が比較的小さいものが多いです。そのため、接続する負荷によっては駆動能力が不足してしまう場合があります。そこで、個別トランジスタを“ちょい足し”すれば、手軽に出力電流を増やすことが可能です。その方法を紹介しましょう。
オペアンプICにアナログ・デバイセズの「OP1177」を使う場合を例に説明していきます。まず、このオペアンプ単体の駆動能力を確認しましょう。インターネット経由で入手して無償で利用可能なSPICEシミュレータ「NI Multisim Analog Devices Edition」を使えば、デスクトップで手軽に特性を評価できます。
シミュレータを立ち上げて、部品ライブラリからOP1177を呼び出し、図1のように結線します。つまりこのオペアンプU1の正負両側の電源にそれぞれ+5Vと−5Vを接続し、入力端子に交流電圧源(振幅は0.5Vrms、周波数は2kHzに設定)をつなぎます。出力には、負荷として4Ωの抵抗R7を接続しました。これで回路は完成です。
次に、オペアンプの出力端子の直後に電流プローブを当てて、オシロスコープで波形を観測してみます。図2がその電流波形です。電流の振幅が上は+40mA、下は−76mAで頭打ちになっていることが読み取れます。これはオペアンプの電流供給能力に限界(最大電流の制限)があるからです。例えばこの品種の場合、最大電流の標準値は±25mAです*1)。
ここで、今回の”ちょい足し”です。図3を見てください。オペアンプの出力に、2個のトランジスタ(Q1、Q2)で構成するプッシュプル回路を接続しました。プッシュプル回路とは、この図のように入力信号線を軸にして上側と下側にそれぞれトランジスタを配置した回路構成をとります。この一対のトランジスタが互いに相補的に動作するコンプリメンタリペアとして機能し、入力信号のプラス側を上側のトランジスタ、マイナス側を下側のトランジスタでそれぞれ増幅する仕組みです。このようにすれば、オペアンプの出力電流をトランジスタで増幅する格好になり、最終的にはトランジスタが4Ωの負荷を駆動する形になります。
それでは再度、電流波形を観測してみましょう。図4は、4Ωの負荷を駆動する電流の波形です。オペアンプ単体で駆動した場合とは異なり、電流の振幅が途中で頭打ちになることがなく、±350mA程度でフルスイングできていることが確認できました。このときのオペアンプの出力電流(プッシュプル回路の駆動電流)の波形が図5です。振幅は±3.5mAと十分低い値に抑えられており、このオペアンプの出力電流の規定値の範囲内に収まっています*2)。
ただしこの回路は、交流信号を扱うには問題があります。プッシュプル回路を構成するトランジスタはカットオフ電圧があります。つまり、ベース・エミッタ間にある程度の電圧が加わらないとトランジスタが働きません。トランジスタはベース・エミッタ間電圧(VBE)が0.65Vですから、それを超えないとトランジスタが動作しないことになります。従って、プッシュプル回路に供給される交流信号の振幅が±0.65V以下の領域では上側と下側の両トランジスタがいずれも機能せず、回路動作に非線形性が生じ、その結果として歪みが増大してしまいます。
直流信号の増幅であれば今回紹介した回路でそのまま対応できますが、交流信号に適用するにはもう一工夫必要です。それについてはまたあらためて紹介します。
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