無線通信や光通信の駆動素子用電流源として役立つ、デジタル・プログラマブル電流源を紹介する。
デジタル・プログラマブル電流源は、自動トリミングができ、パワーダウン・サイクルに入っても設定値を保持できる。このため、無線通信や光通信などの駆動素子用電流源として役立つ。
例えば図1の回路は、同調範囲の広いVCSEL(垂直キャビティー面発光型半導体レーザー)の励起用駆動電流の設定に向けたものだ。この種のレーザーは、波長を頻繁に変えるDWDM(dense wavelength division multiplex)方式の光ファイバ通信システムに適している。
図1の回路は、DPP(digitally programmed potentiometer)を用いた制御によって安定な駆動電流を供給する。DPPには米Catalyst Semiconductor社の「CAT5512」を用いた。ここでは、出力電流の設定範囲が500mAから1Aの場合の回路のパラメーターを示した。センス抵抗R1とR2の値を適切に選ぶことによって、設定範囲は広げられる。
CAT5512を使うと、回路の部品点数が少なくて済む。2個のICと2個の抵抗器でよい。CAT5512は、分解能5ビットの100kΩDPPと、DPP設定値の長期格納用EEPROM、そして単一利得バッファー・アンプを内蔵している。
DPPは、3端子レギュレーターIC「LT317」のインターフェースをデジタル化し、R1とR2による分割電流センス抵抗ネットワークと接続する。この結果、図1の回路は、5ビットの分解能で、IMINからIMAXまでの電流範囲をフレキシブルに設定できるプログラマブル電流源となる。
この回路の動作は下記の通りである。すなわちレギュレーターICは、実効的なセンス抵抗(R1+(1−P)R2)に加わる電圧を一定値(1.25V)に保つために必要な電流を供給する。ここでPはDPPの設定値であり、0、0.032、0.064、0.097、...、0.98、1となる。
駆動電流IL=1.25V/(R1+(1−P)R2)は、P=0におけるIMIN=1.25V/(R1+R2)から、P=1のときのIMAX=1.25V/R1まで変化する。関係する設計方程式はR1=1.25V/IMAXとR2=1.25V/IMIN−R1である。なお、R2の式は近似式である。R2がDPPの並列抵抗100kΩよりはるかに小さいと仮定した。R2の完全な式は下記のようになる。
R2=1/(1/((1.25V/IMIN)−R1)−1/100kΩ)
DPPの設定値「P」の設定とその値のEEPROMへの保存は、3線式のデジタル・インターフェースを介して実行する。詳細はCAT5512のデータ・シートを参照されたい。
負荷電圧の適応限界は、3端子レギュレーターに接続されるV+電源のジャンパー線オプションW1およびW2の関数となる。最大出力電圧VMAXは、LT317の入力電圧V+から、LT317のドロップアウト電圧(約2V)と直列抵抗(R1+R2)による電圧降下を差し引いた値である。
VMAX=(V+)−2V−IMAX(R1+R2)
図1の回路では、最大出力電圧VMAXはV+=4.5Vである。W1のジャンパー線を用いてV+=5Vとすると、計算ではVMAXはわずか500mVとなり、用途によっては十分ではない。これに対し、W2のジャンパー線を選択してV+を7.5V以上にすると、VMAXははるかに適切な2.5V以上へと増える。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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