スイッチングレギュレータ用コントローラICをパルス発生器として利用する方法を紹介する。立ち上がり/降下時間が2ns未満のゲート駆動用パルスを発生させることができるようになる。
ステップ関数のように立ち上がりの速いパルスの発生器は、TDR法(time domain reflectometry method:時間領域反射率測定法)を用いた同軸ケーブルの立ち上がり時間測定やケーブルの障害個所の特定など、実験レベルのさまざまな測定に欠かせない。例えば、数メートルのRG-58/Uケーブルの立ち上がり時間を評価するには、パルスの立ち上がり/降下時間が1〜2nsと高速でなければならない。電子機器に関する実験では米Agilent Technologies社のパルスジェネレータ「HP8012B」がよく使われる。この製品は、立ち上がり時間5nsを実現しており、大抵のアプリケーションではこの速さで十分である。しかしながら、同軸ケーブルの測定には、これでも不十分なのだ。
そこで、ここではスイッチングレギュレータ用コントローラICをパルス発生器として利用する方法を紹介する。これであれば、立ち上がり/降下時間が2ns未満のゲート駆動用パルスを発生させることができ、実験室で用いるパルス発生器としては理想的だ。
図1に示したのが、その回路例である。ここでは、Linear Technology社の固定周波数フライバックコントローラ「LTC3803」(IC1)を使用している。このコントローラは、200kHzの自励式クロックで動作する。その出力をSENSE端子に接続すると、最小デューティ比で動作して300ns幅のパルスが出力される。
LTC3803は、50Ωの負荷を最大9Vの振幅で直接駆動することができる(180mA以上の電流を供給できる)。ただし、その分、電源周辺には十分な配慮が必要である。具体的には、等価直列インダクタンスが小さいコンデンサをIC1の電源とグラウンド(5ピンと2ピン)との間に最短距離で接続する。図1では、C1(10μFのセラミックコンデンサ)とR1(200Ωの抵抗)によってデカップリング/バイパスを行っている。このようにすることで、パルスの振幅の変動を最小限に抑えられる。
高忠実度(fidelity)のパルスを必要とするアプリケーションでこの回路を利用する場合、逆終端抵抗RBACK TERMを使用する。これにより、例えばケーブルの測定を行う場合であれば、TTE(triple-transit echo)を抑制し、ケーブルからの反射とケーブル遠端のインピーダンス不整合を吸収することが可能になる。
逆終端された50Ωシステム(LTC3803の出力インピーダンスは約1.5Ωなので、それを考慮して各抵抗値を決める)では、立ち上がり/降下時間1.5nsで4.5Vのパルスが出力される。言い換えれば、50Ω負荷を直接駆動しても出力の立ち上がり/降下時間に影響はない。また、パルス振幅の過渡的な増加は10%未満に、リーク電流による振幅の低下は5%未満に抑えられる。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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