メディア

整流回路の突入電流を簡単な部品で制限Design Ideas パワー関連と電源

簡単な部品で構成した突入電流制限回路を紹介する。

» 2015年02月27日 08時00分 公開

 整流回路における起動時の突入電流を制限するためには、図1に示すようにコンデンサーによる出力フィルターを用いることが多い。整流回路の交流入力あるいは直流出力に直列に高抵抗を挿入し、フィルターのコンデンサーが十分に充電されてからスイッチを閉じて抵抗を短絡させる。ただしこの回路は、タイマー・リレーあるいは電圧検出回路を別に必要とする。スイッチの開閉を制御するためである。さらにスイッチは、通常動作時の最大負荷電流に耐えられなければならない。

図1 従来の突入電流制限回路
スイッチは、通常動作時の最大負荷電流に耐えられなければならない。

 図2は、簡単な部品で構成した突入電流制限回路である。市販部品だけを採用しており、大きさとコストの両方で図1の回路に勝る。スイッチはフィルター・コンデンサーと直列に挿入し、突入電流を制限する。このため、スイッチを流れる電流は十分少なくなる。図2でスイッチS1は、充電抵抗R1を短絡させる。

図2 今回考案した突入電流制限回路
スイッチを流れる電流が小さい。

 市販の直流リレーを利用しており、リレーの接点がスイッチとなる。このリレーはコンデンサーCの電圧を検出して動くので、スイッチは自動的に動作する。充電抵抗R1は突入電流のピーク値を制限すると共に、起動の遅延時間を決めている。

 リレーはコンデンサーCが十分に充電されてからオンになり、抵抗R1を短絡する。オフ状態のときは抵抗R2とコンデンサーCを結線し、放電を早める。

 リレーのジッターを防ぐには、オンとオフの間に適切なヒステリシスを与える必要がある。ヒステリシスが小さすぎると、交流電圧の瞬時低下で誤動作する。ヒステリシスが大きすぎると、リレーが再び閉じたときに突入電流を制限しづらくなる。最適なヒステリシス特性を得るためには、ツェナー・ダイオードDZと抵抗R3をリレーのコイル部に直列に挿入するとよい。

 図2の回路の動作を次式に示す。

  • コンデンサーCにおける直流ピックアップ電圧:
  • 直流ドロップアウト電圧:
  • ヒステリシス:

 ただし、VCPはリレー・コイルのピックアップ電圧、RCはリレー・コイルの抵抗、VZはツェナー・ダイオードの降伏電圧、IZはツェナー・ダイオードの降伏電流である。

 市販部品は特性値のばらつきが大きい。このため、直流ピックアップ電圧や直流ドロップアウト電圧に差が生じる。VCPとRC、IZのばらつきの影響を最小限に抑えるには、抵抗R3の値をできる限り小さくする。VZとR3のばらつきは回路に大きな影響を与えない。しかしIZには温度依存性があり、これがドロップアウト電圧に影響する。試作回路による実験結果を図3に示す。

図3 試作した回路(図2)の動作
突入電流は約6Aと安全な値に抑えられている。CH1はコンデンサーの端子電圧(50V/目盛り)、CH2は突入電流(2A/目盛り)。

 試作に利用した部品の値は、C=2000μF(無極性)、R1=36Ω、R2=4.7kΩ、R3=12kΩ、VZ=110V、IZ=3mA、VCP=65V、RC=10kΩである。


Design Ideas〜回路設計アイデア集

【アナログ機能回路】:フィルタ回路や発振回路、センサー回路など

【パワー関連と電源】:ノイズの低減手法、保護回路など

【ディスプレイとドライバ】:LEDの制御、活用法など

【計測とテスト】:簡易テスターの設計例、旧式の計測装置の有効な活用法など

【信号源とパルス処理】:その他のユニークな回路




※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.