従来の製品安全規格「IEC 60065」「IEC 60950-1」の失効期限が2019年6月に設定され、新・製品安全規格「IEC 62368-1」への移行が不可欠になっています。そこで、本稿では従来規格から新規格への移行に取り組まれる人に向けて、新規格への移行スケジュールを紹介しながら、移行期間の活用方法や今後の規格動向などについて解説していきます。
マルチメディア化による情報技術機器(ITE)分野とオーディオ/ビデオ機器(A/V)分野の製品カテゴリーのボーダーレス化、新技術への迅速な対応、革新的な製品の早期市場投入の促進などの需要を背景として、IEC TC108注1)が10年あまりの歳月をかけて開発したハザードベースの新規格「IEC 62368-1第1版」が2010年1月に発行されました。
そして、2014年4月に第2版が発行され、欧州のEN規格、北米の2か国共通CSA/UL規格として採用されたことと、旧規格であるIEC 60065およびIEC 60950-1の具体的な失効期限注2)(DOW:2019年6月20日)が設定されたことにより、AV、ITEの製造各社は、具体的に新規格移行に向けたスケジュールを立案できる段階に入ってきています。この状況を受けて、製造業者をはじめ、該当製品の関連業界では、旧規格の失効期限に向けた規格移行準備を開始されていると思います。
本稿では、現在、旧規格から新規格への移行に取り組まれている方に向けて、新規格への移行スケジュールを紹介しながら、移行期間の活用方法や今後の規格動向などについて述べていきます。
注1)IEC TC108:IECの専門委員会(Technical Committee)の1つで、オーディオ/ビデオ、情報・通信技術機器の安全分野の規格標準化や、タッチカレント・情報通信機器のエネルギー効率測定方法の規格開発等をスコープとしています。
注2)規格の有効・失効期限はその規格を使用した認証制度のルールの一環なので、実際には当該IEC規格に整合した地域規格や国家規格の使用期限ということになります。欧州ではEN規格、米国ではUL規格になります。2019年6月20日のDOW(Date of Withdrawal)はEN62368-1への移行期限としてCENELECが設定し、米国でもこれに合わせて同じ日をUL62368-1への移行期限(Effective Date)としてULが設定しました。
移行準備の重要なステップとして、まずは「新規格の学習」が考えられるでしょう。IEC 62368-1は、従来のIEC 60065とIEC 60950-1を単純に合体させたものではありません。新規格は、両方の製品群をカバーするようにできていますが、「ハザードベース規格」というキーワードが示すように、旧規格の既存製品の構造や既知の技術を想定して適合条件を述べる形式から、「エネルギー」という普遍的な物理量を基軸にしています。そして、人体の許容度を超えたエネルギーの伝達によりケガが発生するというHBSE(Hazard Based Safety Engineering)理論をベースに、ケガを防ぐ、すなわちエネルギー伝達を防ぐ手段を「セーフガード」として認識し、その有効性を評価するという新しいアプローチを採用し、規格が構成されています。
旧規格の経験をお持ちの技術者の方々は、むしろその違いに戸惑うかもしれません。そのためにも、新規格の内容に早い段階で精通することが、円滑な移行を実現するための最も重要な要素の1つであることは間違いありません。
IEC 62368はマルチパート規格(複数の規格で構成)の形態をとっています。IEC 62368-1は、Part 1で基本的な安全要求事項を規定しています。これに対し、Part 2は、「IEC/TR 62368-2:Explanatory information related to IEC 62368-1」というテクニカルレポートとして提供されており、Part 1で規定しているIEC 62368-1の要求事項が設定されたそれぞれの背景や意図、要求の元となった参照規格や原理などについて解説しています。両者を併読することで規格の内容がより深く理解できる体系で構成されています。
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