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新・製品安全規格「IEC 62368-1」の動向と移行方法2019年6月のマイルストーンに向けて(3/4 ページ)

» 2016年01月22日 11時30分 公開

製品と部品の間の連携

 2019年6月20日までのどのタイミングで新規格を導入するか検討する際に、上記のシナリオの他に考えられる技術的懸念として、最終製品と部品の移行時期の連携の問題があると思います。つまり完成品メーカーが自社の製品認証に新規格を適用する際、「同じ規格で評価される購入部品も新規格適合品でなければならないのか?」という懸念です。

 典型的な例として挙げられるのが、製品に組み込むスイッチング電源です。多くの場合、スイッチング電源は製品と同じ規格で評価され、電源メーカーが認証取得したものを完成品メーカーが購入もしくはそのように発注するでしょう。製品側が新規格を導入しようとするとき、電源メーカー側が未対応であった場合どうなるでしょうか? 逆のケースで電源メーカーがいち早く新規格に移行しても、その顧客である完成品メーカーがまだ旧規格を使用している場合はどうでしょうか? 

 また、複合印刷機(Multi Function Printer)などにみられる様に多数のアクセサリーパーツを組み合わせてシステムを構成するような製品の場合、全ての構成部分を一度に新規格に適合させなければならないのでしょうか?

 このような懸念があれば、新規格導入にかかわる関係者がそれぞれの立場から慎重になり、移行の時期がどんどん先送りされることになりかねません。このことは、新規格の普及や円滑な移行に当たって大きな障害となります。規格を開発したIEC TC108ではこのような障害を取り除いて規格の移行が円滑に進められるよう、新旧規格の間でそれぞれの適合部品を相互に受け入れるような規定を盛り込みました。

 IEC 62368-1の4.1.1項に、

原文

Components and subassemblies that comply with IEC 60950-1 or IEC 60065 are acceptable as part of equipment covered by this standard without further evaluation other than to give consideration to the appropriate use of the component or subassembly in the end-product.

NOTE:This paragraph will be deleted in edition 3 of this standard. It is added here to provide a smooth transition from the latest editions of IEC 60950-1 and IEC 60065 to this standard.

日本語訳

 IEC 60065またはIEC 60950-1に適合する部品や半組立品は、製品内で適切に使用されているかどうか考慮することを除いて追加評価をすることなく本規格がカバーする製品の一部として受け入れる。

注記:この段落は旧規格からの円滑な移行を目的に追加されており、第3版では削除される。

と述べられています。

 これにより、60065/60950-1(旧規格)に適合した部品を62368-1(新規格)の製品に使用できるようになりました。同様に旧規格にも同様の規定が追記され、新規格の適合部品を旧規格の製品に使用することが可能になりました。これによって最終製品と部品やシステム内の製品同士で、製造者がそれぞれ自社の状況に合わせ、独自に規格移行計画を立てられ、早期移行に伴う懸念材料を払拭しています。

 上記のように新旧規格で相互に適合部品を受け入れることを規定したにしても、要求事項の詳細が異なる部分について「技術的な齟齬(そご)は生じないのか?」という疑問も生じるでしょう。

 例えば、60950-1に基づいて認証されたスイッチング電源(SMPS)の低電圧出力回路は、通常、安全超低電圧(SELV)の定義により回路分類され、感電の危険のない回路と認識されます。

 しかし、62368-1では、SELVという用語/定義はなくなり、感電に関する回路分類はES1/ES2/ES3というエネルギー源クラスに代わっており、一般使用者が触れても感電の危険がないとされる回路分類はES1になりますが、この定義はSELVの定義とは同一ではありません。上記の規定により新旧規格間の部品の受け入れが行われた場合、このように定義の異なる回路が混在したり接続されたりすることになります。

 このように用語や定義、回路分類など詳細の規定が両規格間で同一でないことは事実です。ただし重要なことは、62368-1においてES1エネルギー源が、一般人(ユーザーまたは操作者)が接触しても安全であるのと同様に、60950-1においてSELV回路はユーザー(または操作者)が接触しても安全であるということです。従来規格に代わる新規格の開発と移行は冒頭で述べたような社会的な背景と需要に基づくものであり、決して従来規格の安全性レベルが不足していたからではありません。この文脈において両者が提供する安全性レベルは同等であると見なせます。

 製品に対する安全規格の適用を実用的な視点で考察し、62368-1に従来規格適合部品の規定を追加したIEC TC 108の意図をくんで規格のスムーズな移行を大きな目的と考えて考慮するならば、SELV/ES1回路の相互接続は実用的なレベルにおいて妥当と考えられます。

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