さて、扇風機の制御基板の回路確認が目的だったが、あらためてこの基板の設計を確認して3つの疑問点の整理をした。
まずは、図3の基板の左下側の切り欠きである。これは何を意味するか?
実装されているR1の18kΩはAC100Vから制御用の電源を取り込む抵抗だ。この抵抗値では5mA程度の電流が流れ、0.5W程度の電力が発生する。実装されている抵抗は大きさから見て1/4Wの許容電力と思われる。1/4Wでは発熱がかなり大きくなるだろう。この抵抗の下を切り欠いて基板に実装している理由は熱による基板の焼けや火災の予防と思われた。IC(PT2124)のデータシートには半波整流で15kΩ1/2Wを使うように記載されており抵抗R1の電力値の選択には少し疑問が残った。
次は図5の回路図に追記したD2の必要性だ。このダイオードD2は推奨回路にはないのに、なぜわざわざ追加したのか?
それは扇風機が停止している時には制御回路だけで電力を消費するが、D2がないと半波整流になり力率が半分以下になってしまう。このD2を追加したのは、待機時のAC100Vの力率を上げるためと思われる。しかし、D2がなければR1の消費電力が半分の1/4Wになって省エネになり抵抗R1の発熱も減る。やはりD2は不要だろう。
図3では3つのスイッチには並列にCC2からCC4のコンデンサーが接続されていた。図5の回路図には記載されていないが、図3の基板には実装されている。おそらく誤動作防止の目的で追加されたものだろう。このコンデンサーは本当に必要だろうか?
周囲の高周波ノイズが大きい環境で使用する場合はこのコンデンサーは誤動作防止の効果があると思われる。
この扇風機は世界各地で販売され、家庭だけでなく工場でも使用されると思われるので、各国の安全対応や使用環境のノイズ対策が実施されたのではないだろうか。なお古い扇風機なので日本のPSEマークはなかった。
今回確認した扇風機の回路は非常にシンプルな回路だった。シンプルな理由はトライアックのゲートの駆動方法だ。DC電源でトランジスタを駆動するのと同じイメージでAC100V電源により負荷をシンプルに駆動していた。家電製品では、AC100Vを駆動する回路の簡素化が重要だが、トライアックのトリガー方法が決め手になる。トライアックを使い慣れていないとPhotoMOSリレーやメカリレーを使うことになり、制御回路の消費電流が増えコストも割高になってしまう。家電製品の電子機器はAC100Vをそのまま使うので、トライアックのゲートをうまく制御すれば安価に設計できる。この扇風機の回路図から家電製品を設計するノウハウを得ることができた。
今回は扇風機を分解して制御部の回路を確認することで家電用ICの簡素で面白い回路に巡り会えた。またトライアックのシンプルな使い方を見つけたことが一番の収穫だった。
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