筆者は常々、良い品質の製品を作ることは、メーカーが生き残るための必要条件だと確信している。そうした中で、先日、修理依頼を受けた温調器は、目を覆うばかりの醜い設計が……。今回は、メーカーの資質が疑われるほどの悪設計だった温調器の修理の様子を紹介しよう。
20年以上前に製造された温調器の修理を依頼された。もちろん回路図はない。聞くと『起動し始めると、何かしらの不具合が出る』ということだった。ケースを開けて基板を確認すると、21個のCMOSロジックIC「4000シリーズ」と3個のトランジスタアレイが使用されていた。電源電圧はDC12Vということだった。
筆者も30年前だが4000シリーズを12V電源で使ったことがある。12VではCMOSロジックICの出力に大きな駆動電流が流れてしまい『出力を短絡するとICが壊れた』という記憶がよみがえった。
そして、基板に実装されたトランジスタアレイをよくよく見ると大きな違和感を覚えた。トランジスタアレイの型番が「TD62002」だったためだ。というのも12V用のトランジスタアレイは「TD62004」を使うべきで、TD62002は12Vよりもっと電圧の高いPMOS用のはずなのだ――。
基板の一部分を図1に示す。
図1で下段の4個中の3個の赤四角で囲った部品はトランジスタアレイのTD62002だ。このトランジスタアレイシリーズは量産製品の設計に何度も使用したことがある。5V用にはTD62003、12V用にはTD62004を選択した。TD62002は使ったことはないが、PMOSの18V用だった記憶がある。早速TD62002のデータシートを確認してみた。図2にデータシートの一部を示す(赤く囲った部分がTD62002に関する記述箇所だ)。
やはりTD62002は18VのPMOS用で最小入力電圧は14.5Vだった。12Vの動作は保証されていない。
なんだ、この回路設計は!
12V電源の回路でこのトランジスタアレイを使うのは明らかにおかしい。
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