データシートの読み方編の最終回となる今回は、マイコン製品のデータシートのうち、「フラッシュメモリ特性」「ラッチアップ、EMS、EMI、ESD」「汎用I/O」「リセット回路特性」「通信機能特性(SPI)」「A-Dコンバーター特性」の項目について解説していく。
前回に引き続き、マイコンのデータシートの記載内容と数字の意味を解説していく。
今回は「フラッシュメモリ特性」「ラッチアップ、EMS、EMI、ESD」「汎用I/O」「リセット回路特性」「通信機能特性(SPI)」「A-Dコンバーター特性」について、マイコンメーカーのエンジニアという立場から過去に多く寄せられた問い合わせ内容を紹介しつつ、問題解決方法を解説する。なお、第1回、第2回に引き続き、STマイクロエレクトロニクスの32ビットマイコン「STM32ファミリ」のデータシートを例に説明していく。
図1にフラッシュメモリに命令やデータを書き込む、消去する際の時間を示す。ほとんどのユーザーが知りたいことは、作業員が書き込み装置のスタートボタンを押して、実行完了までのレスポンス時間だが、ここに記載されている値は、マイコン内部の書き込み/消去の時間であって、作業員の作業時間ではない。多くのユーザーに、実際のPCで書き込むと何秒ぐらいかかるのかと聞かれて、ユーザーの目の前で時間を測定したことがあるが、これは結局PCの性能の比較をしていることになり、無意味な行為だった。
フラッシュメモリの各セルには、フローティングゲートという電荷をためる仕組みがあり、そこに電荷を注入したり、抜き取ったりして、書き込み/消去を行っている *1)。そのため、一度に操作するビット数が多ければ、移動させる電荷量が多いので、時間が必要となる。最も遅いのは全ビットを一度に消す場合になる。
図2に書き換え回数とデータ保持時間とフラッシュメモリモジュールの消費電流を示す。
前述したフローティングゲートに複数回電荷を注入したり、抜き取ったりしていると、だんだん劣化し、最終的には使用できなくなる。その回数が書き換え回数だ。また、いったん書き込んだデータが、複数回読み出しを繰り返した場合に何年間、維持できるかを示したのが、保持可能年数だ。フローティングゲートからは、超微小な電荷漏れが発生していて、データを読み出し回数が多いと、電荷が漏れる量も増える。そのため、書き換え回数が多い方が、保持年数が短い。また、高温で使用した場合にも、保持年数が短くなる傾向がある。一方、消費電流については、書き換えビットの数が多ければ、電荷の移動量が多くなるということであり当然、消費電流は多くなると容易に理解できるだろう。
*1)関連記事:Q&Aで学ぶマイコン講座(37):メモリの種類と特長
図3にラッチアップ、EMS(Electro Magnetic Susceptibility)、EMI(Electro Magnetic Interference)、ESD(Electro Static Discharge)のスペックを示す。スペックといっても、マイコンがどのような条件で、どのような標準規格の試験に合格しているかを示すものである。ラッチアップについては「Q&Aで学ぶマイコン講座(4):ラッチアップって何?」を参照、ESDに関しては「Q&Aで学ぶマイコン講座(38):ESDとEOSの違いと対策法」を参照していただきたい。
簡単にいうと、EMSとは、マイコンが受けるノイズに対する強さを表す。EMIとは、マイコンが出すノイズの強さを表す。
全ての項目の「Condition」(コンディション)の欄に、適用した標準規格(例、IEC61000-4-4など)が書かれており、その規格に合格したレベルやクラスを記載している。
EMS、EMI、ESDは、実装したプリント配線板や使用環境に依存するが、これらの試験はマイコン単体で行われるので、純粋にマイコンの実力を意味する。だからといって、ラッチアップ、EMS、EMI、ESDの対策を施さなくてもよいというものではない。開発者は細心の注意を払って、システムを開発する必要がある。
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