データシートに記載されているA-Dコンバーターのスペックには2種類ある。1つはA-Dコンバーターモジュールの電気的特性(図9)、もう1つはA-Dコンバーターで変換した結果の誤差に関する特性(図10)だ。
図9にサンプル&ホールドタイプのA-Dコンバーターの電気的特性を示す。
最初に、電源電圧や動作周波数が規定されている。A-Dコンバーターはアナログ回路なので、MOSのアナログ特性の影響を受ける。例えば、動作周波数fADC(ADC clock frequency)は、電源電圧によって2段階で規定されている。これは電源電圧が低くなると、MOSのスイッチング速度が遅くなるためである。
また、このA-Dコンバーターはサンプル&ホールドタイプなので、サンプリングする回路の抵抗値(RADC)やホールドするためのコンデンサー(CADC)の容量値も記載されている。サンプル&ホールドタイプのサンプリング時間の計算方法は「Q&Aで学ぶマイコン講座(12):サンプル&ホールド型A-Dコンバータのサンプリング時間はどうやって決めるの?」を参照してほしい。
アナログ回路のもう1つのポイントは、A-D変換中の消費電流である。アナログ回路は、基本的にバイアス電流を流すため、他のデジタル回路の周辺機能に比べて、消費電流が大きくなる傾向がある。そのため、ユーザーはアナログ用電源の供給可能容量を設計する際に、A-Dコンバーターの消費電流を考慮しなければならない。過去にA-Dコンバーター用電源の設計(デカップリングコンデンサーなどの周辺回路など)が不適切で、電流変動の影響で変換誤差が大きくなった例がある。
図10に誤差に関するスペックを示す。
一応、適応図付きで各誤差の意味を説明しているが、それでも理解していないユーザーが多い。初めてA-Dコンバーターを使うユーザーは、A-Dコンバーターの専門書で勉強しておくことをおすすめする。
誤差に関しての過去の問題事例としては、ここに記載してある誤差を全て足せば、実際の変換誤差になると考えていたユーザーがいた。一応、各誤差を説明し、納得してもらったが、まずはA-Dコンバーターの基本的な知識を身に付けてもらいたい。
日系半導体メーカーにて、25年以上にわたりマイコンの設計業務に携わる。その後、STマイクロエレクトロニクスに入社し、現在までARM Cortex-Mプロセッサを搭載したSTM32ファミリの技術サポート業務に従事。ARMマイコン以外にも精通しており、一般的な4ビットマイコンから32ビットマイコンまで幅広い知識を有する。業務の傍らマイコンに関する技術論文や記事の執筆を行っており、複雑な技術を誰にでも分かりやすい文章で解説することがモットー。
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